タイムリミット

2004/02/13 スペースFS汐留ホール
デンゼル・ワシントン主演のサスペンス・ミステリー映画だが、
これは主役のキャスティングが間違いかも。by K. Hattori


 『トレーニング・デイ』でアカデミー主演男優賞を受賞したデンゼル・ワシントンが、受賞後最初に出演したサスペンス・ミステリー映画。無実の男が殺人の濡れ衣を着せられそうになるが、独自の捜査で真犯人を捜し出すという定番の巻き込まれ型サスペンス。しかしこの映画では、主人公が最後まで「容疑者」そのものにならないところがミソ。主人公は小さな町の警察署長で、殺されたのは自分と不倫関係にあった女とその夫。自分に嫌疑の目が向けられれば、不利な証拠は山のように揃っていることを彼自身が一番よく知っている。主人公は自分の名前が捜査線上に出てこないように立ち回りつつ、事件の真相をたったひとりで追わなければならない。

 物語の舞台はフロリダの小島バニアン・キー。ある夜その町で1件の住宅火災が起きる。火元となった家は全焼。焼け跡からは家に住んでいたハンソン夫妻の死体が発見される。出火原因は時限発火装置を使ったプロパンガスの爆発。これは殺人だ。この知らせを聞いて、地元の警察署長マット・リー・ウィトロックは青ざめる。黒こげ死体となったアン・マレー・ハリソンはしばらく前から彼の愛人で、彼女の生命保険の受取人は数日前にマットに変更されたばかりなのだ。しかも彼女には警察の金庫から一時借用した大金が渡っており、それは家と一緒に灰になってしまった。しかも殺人事件の捜査を指揮するのは、マットと半年以上前に別居している妻アレックスだった……。

 監督はデンゼル・ワシントンと『青いドレスの女』で組んだことのあるカール・フランクリン。脚本はデイヴ・コラードのオリジナルだが、この映画は脚本の意図とはまるで異なる作品になっているのではないだろうか。主人公のマットは悪人ではないが、優柔不断なところがある弱い男だ。妻を愛しているくせに彼女が去っていくことに何の手を打つこともできず、しかも人妻との情事にうつつを抜かしている。彼が巻き込まれた事件は、結局のところ身から出たサビではないか。この役はもっと風采の上がらない地味な男が演じた方がリアリティがあるし、映画にも味が出たと思う。妻も愛人も特別な美女である必要はない。だがデンゼル・ワシントンがこの役を演じると、優柔不断で弱い男が自分の身を守るために必死になるという切迫感がなくなってしまう。むしろ自分の浮気の証拠を必死に隠して回る、ズルイ男に見えてしまうではないか。

 この映画はそれなりに面白くできているが、脚本が本来想定している規模より大きくなりすぎてしまったと思う。ただし作品にスター俳優を迎えることで、この映画が「儲かる映画」になったことは間違いない。フィリップ・シーモア・ホフマンやジョン・C・ライリーを主役に迎えれば、この映画は脚本本来の面白さをもっと発揮できたかもしれない。でもそんな映画を、いったい誰が観るっての? 作品の完成度より儲け優先がハリウッドなのだ。

(原題:Out of Time)

4月公開予定 渋谷東急他・全国松竹東急系
配給:東芝エンタテインメント
2003年|1時間40分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|ドルビーデジタル、dts
関連ホームページ:
http://www.timelimit.jp/

DVD:タイムリミット
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