ハナのアフガンノート

2004/02/27 メディアボックス試写室
映画がなかった国で映画撮影をするのがこれほど困難とは……。
アフガニスタンでは映画を撮るまでが大変。by K. Hattori

 イランの若手女性映画監督サミラ・マフマルバフが、タリバン政権崩壊直後のアフガニスタンで新作映画『午後の五時』を撮ることになった。この映画『ハナのアフガンノート』は、その映画撮影の旅に同行したサミラの妹ハナ・マフマルバフが、ビデオカメラを使って撮ったドキュメンタリー映画だ。もともとは映画のメイキングとして企画されたようだが、完成した映画は出演者の募集とオーディション、カメラテストなどを取材し、最終的に主演女優が決まるところで終わっている。つまりこれは、映画を撮るまでのお話。実際の映画撮影風景はゼロだ。最終的に映画のメイキングは、これと別に独立した作品として作られたらしい。

 サミラとハナの父はイランの有名監督モフセン・マフマルバフだが、彼には『サラーム・シネマ』という映画出演者のオーディション風景だけを撮った映画がある。おそらく今回の映画は、それを踏まえた上でモフセン監督から娘へのアドバイスがあったのではないだろうか。『サラーム・シネマ』は最初から「オーディションの映画を撮る」という目的で作られた映画のようだが、この『ハナのアフガンノート』はそうした作為がまったくないところで、期せずしてオーディションとカメラテストの映画になってしまったところが面白い。

 『サラーム・シネマ』のモフセン・マフマルバフ監督は、何とか採用してもらおうとするオーディション参加者を好き勝手にいじくり倒し、横暴な専制君主のように振る舞っていた。ところがアフガニスタンでの映画作りでは、それとまったく逆の状態が出現する。長い内戦とタリバンの支配が続いていたアフガンで人々が知っている映画は、パキスタンやインドから入ってくるミュージカル映画だけ。女性が外出することすら禁じた厳格なイスラム国家では、腕や腹や足をむき出しにした女たちが歌い踊るインドのミュージカルは、とんでもなく破廉恥なシロモノ。彼らにとって「映画」とは、日本におけるアダルトビデオみたいなものなのだ。

 こんな国に飛び込んで映画を作ろうとするサミラは、自分たちの映画作りがいかがわしいものではないことを、まずは人々に納得して貰わなければならない。しかしこれがひどく難しい。「映画に出てくれ」と一言いった途端に、ある者は「そんなことはできない」と怒鳴りだし、別の人は「無理よ」と言ったきり黙ってしまう。これに対して、サミラやスタッフはひたすら丁寧に、言葉をつくして相手を説得しようとする。言葉づかいは丁寧でも、スタッフたちがひどくイライラしていることがカメラ越しに伝わってくる。

 「なんでこいつらは、こんなに物わかりが悪いんだ!」と怒鳴り出したくなるのを、じっと我慢してひたすら相手をおだてまくるスタッフたちの苦心惨憺ぶりがおかしくてしかたがない。スカウトした老人を「表情がいい」「ひげが立派」などと褒めちぎるくだりは笑ってしまった。

(英題:Joy of Madness)

5月公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:東京テアトル 宣伝:ムヴィオラ
2003年|1時間13分|イラン|カラー|1:1.66
関連ホームページ:http://www.theatres.co.jp/
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