サラ・モートンはイギリスの人気ミステリー作家だが、ここしばらくは創作上の大きな壁に突き当たっていた。出版社の社長ジョンはそんな彼女に、南仏にある自分の別荘に行くことを薦める。「自分も後から行く」というジョンの言葉にうながされて南仏を訪れたサラは、のどかな風景と快適で自由気ままな別荘暮らしの中で久しぶりに創作意欲がわいてくるのを感じた。だがそんなサラの暮らしの前に、招かれざる客が現れる。それはジョンの娘ジュリーだ。彼女の登場で、サラの筆はぴたりと止まってしまう。昼はプールサイドで寝そべり、夜は行きずりの男たちを次々部屋に引っ張り込んでは、激しいセックスに嬌声を上げるジュリー。サラはそんな彼女に敵意を持つが、やがて彼女をモデルにした小説を書くことを思いつく……。
監督・脚本は『8人の女たち』のフランソワ・オゾン。主演はオゾンの『まぼろし』に主演したシャーロット・ランプリングと、オゾンの『焼け石に水』で注目され、『8人の女たち』にも出演していたリュディヴィーヌ・サニエ。オゾン映画のヒロイン同士が、相互に敵意を向け合いバチバチと火花を散らす。オゾン監督の映画はヒロインが突然脱ぐとか、突然激しいラブシーンが始まるのだが、この映画でもシャーロット・ランプリングのフルヌードと、サニエ嬢の激しいセックスシーンが観られます。こういうシーンでも、まったくエロチックな臭いを感じさせないのがオゾン流。ランプリングのヘアヌードはあまりにも唐突で、ほとんどギャグじゃなかろうか。(試写室ではクスクス笑いも起きていた。)サニエのラブシーンも、その背後でサラの殺意に近い感情がフツフツとわき上がる様子が見られて怖いぐらいだ。
ミステリー映画なので物語の後半についてはあまり詳細に書くつもりもないが、いくつかの謎を提示しながらドラマが進み、最後はあっと驚くドンデン返しになる。これには参った。最後の2分ほどで「え? 何なの?」と観客の度肝を抜き、最後の最後に登場するワンカットで物語を一気にひっくり返すのだ。そうか。そうだったのか! でもこれ、わかんない人も大勢いると思うぞ。
ジョンとジュリーの関係。ジュリーの腹にある切り傷。頬にある殴られたアザ。ジュリーの母の謎。それとなく小さな謎をドラマの中にちりばめ、観客をミスリードしていく手並みの鮮やかさ。観客の心理を巧みに操作しながら、ショッキングなシーンを要所に滑り込ませていくストーリー展開はオゾン監督の独壇場だ。鋭い刃物で切りつけられるような、このヒヤリとした感覚。平穏な暮らしをしている女のもとに、突然風来坊の女が現れるという物語は、オゾン監督の初期中編『海をみる』と共通するもの。『海をみる』も恐ろしい映画だったけれど、今回の『スイミング・プール』はただ怖いだけでは終わらない。オゾン監督は冴えた感覚を保ちながら、確実に進化している。
(原題:Swimming Pool)
DVD:スイミング・プール
サントラCD:スイミング・プール ノベライズ:スイミング・プール 関連DVD:フランソワ・オゾン監督 関連DVD:シャーロット・ランプリング 関連DVD:リュディヴィーヌ・サニエ |