MAY

−メイ−

2004/03/12 松竹試写室
孤独な少女の一途な思いが悪夢のような光景を作り上げる。
異色のスプラッター・ホラー。by K. Hattori

 保護者による児童虐待が社会問題化して連日のようにニュースになっているけれど、子供を殴ったり蹴ったりすることだけが虐待じゃないのだ。子供を親の所有物かペットのように扱っている点では、子供に暴力を振るう親も、子供を着せ替え人形のようにして次々ブランド物の商品を買い与える親も、根っこは同じなのかもしれない。「子供」というペットを猫かわいがりする飼い主は、ペットに飽きれば捨ててしまう。捨てることができなければ虐待する。要するにそういうことなんじゃないだろうか。

 メイは両親に愛されて育った。特に母親はメイを溺愛し、自分の思い通りに育て上げた。でもそれは、メイをペットのように猫かわいがりすることでしかなかったのだ。幼い頃から派手なアイパッチを付けさせたり、「触ってはいけない人形」をプレゼントに与えたりする母親。「お前を愛している」という言葉とは裏腹に、メイは母親のせいで友だちが誰もいない女の子になってしまった。それから10数年。メイは独り暮らしをしている。動物病院に勤めているメイだが、親しい友人は誰もいない。唯一の話し相手は、幼い頃に母がプレゼントしてくれた例の人形だけだ。でもそんなメイが恋をする。相手は手のきれいな青年だった……。

 映画はいきなり目をえぐられて悲鳴を上げるメイの姿から始まり、彼女の少女時代に戻る。子供を支配しようとする母親との関係がここで描かれるのだが、その異様とも思える母子関係が、成長したメイの周囲から完全に消えている。だが母親は姿を消した後も、人形を通して間接的にメイを支配しコントロールし続ける。メイの人形遊びは、人形と自分自身との一人二役を長年演じ続けることでメイの人格を分裂させていく。メイの中に育まれた人形のキャラクター。それが最後に、メイ本人を乗っ取ってしまう。

 監督はこれがデビュー作のラッキー・マッキー(なんという名前だ!)。主人公のメイを演じているのは、『17歳のカルテ』や『ブレス・ザ・チャイルド』に出演していたアンジェラ・ベティス。ボーイフレンドのアダムをジェレミー・シストが演じ、同じ動物病院で受付嬢をしているポリーを『絶叫計画』シリーズのアンナ・ファリスが演じている。

 自分にとって理想の友達を作るため、周囲の人々から理想的なパーツを集めるメイ。だがどんなに理想的なボディを作り上げても、そこには自分を見つめてくれる眼差しがない。メイが最後に自らの目をえぐるのは、彼女にとって最良の友は、結局自分自身でしかなかったということだろうか。最後の最後になっても、「自分」と「もうひとりの自分」という閉じた関係の中にしか安らぎを見いだせない哀れなメイ。

 低予算のスプラッタ映画だが、物語を殺人鬼となる孤独な女性の一人称で描いているところが面白い。ところで動物病院のグロい話は、なんだか実話っぽい生々しさがあるなぁ……。

(原題:MAY)

GW公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:アートポート
2002年|1時間34分|アメリカ|カラー|ヴィスタ|DTS、ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.maythemovie.jp/
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