死に花

2004/04/06 東映第1試写室
出演者の豪華な顔ぶれに頼ってキャラクターがおざなり。
面白いけどパンチ不足の感は否めない。by K. Hattori

 高級老人ホームで悠々自適な、それでいて少々孤独な余生を送る不良老人たちが、仲間の遺した計画書に従って銀行を襲撃する犯罪コメディ。原作は太田蘭三の同名小説。監督は犬童一心。出演は山崎努、青島幸男、谷啓、長門勇、藤岡琢也、松原智恵子、宇津井健、そして森繁久彌というそうそうたるメンバー。この顔ぶれの中に、若手の星野真里が加わって花を添える。

 東京郊外の高級老人ホームで仲間のひとりが死んだ。何でもかんでも計画するのが好きだった故人は、自分の葬儀の段取りまできっちり整えていた。ホームの仲間だった元映画プロデューサー菊島真には、故人の遺した1枚のフロッピーディスクが手渡される。そこにはなんと、綿密な銀行襲撃計画が記されていた。これを知った同じホームの仲間たちは、力を合わせてこの計画を実行に移す。隅田川沿いにある銀行の地下室目がけて、川の土手から穴を掘り進めていく仲間たち。銀行の合併と視点の統廃合でタイムリミットが設けられたものの、計画は着々と進行していった。だがその時、菊島の身に異変が起きる……。

 主人公たちの犯行動機が「銀行から大金をせしめたい」という金銭欲にあるのではなく、「何か夢中になれることに没頭したい」という遊び心にある点が面白い。もちろんそこには、自分をリストラした銀行に復讐したいと願う人もいれば、故人の願いを叶えることで友情に報いたいという思いもあるかもしれない。でも最後に主人公たちを動かすのは、「死」という終着駅に向かう下り坂を力無く歩むことから抜け出して、新しい「生」の目標を取り戻したいというエネルギーだ。仕事を定年退職し、老人ホームに引っ込んだからと言って、あとは静かに「余生」を送るなんてまっぴら御免。肉体的には衰えたと言えども、夢中になって打ち込める何かさえあれば、「生」はギラギラとしたかつての勢いを取り戻す。

 物語の設定は面白いと思うし、思わず笑ってしまう場面も多い。ロケ地がほとんど東京都中央区の隅田川沿い、つまり僕の生活圏の中にあることも個人的には楽しかった。でもこの映画、ドラマ部分がもう少しふくらんでもいいんじゃないだろうか。登場する老人たちに、もっといろんな個性がほしかった。なんだかみなさん、妙におとなしくて角の取れた、愛すべきオジイチャマになってませんかね。それぞれの役柄にはもっと、強烈な個性があってもいいと思う。いつも文句ばかり言う堅物のインテリ、何かあるとすぐ怒鳴る頑固オヤジ、すぐパニックを起こす小心なあわて者、男には強いが女性に弱いはにかみ屋などなど、わかりやすい漫画的なキャラクターをあてはめても、この出演者たちならちゃんとそれを血の通ったリアルな人間として演じてくれたに違いない。せっかくこれだけの俳優を集めながら、どのキャラクターも最終的には似通ってしまったのが残念。脚本段階で、もっと欲張ってほしかったと思う。

5月8日公開予定 丸の内東映他・全国東映系
配給:東映
2004年|2時間|日本|カラー
関連ホームページ:http://shinibana.jp/
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