犬と歩けば

チロリとタムラ

2004/04/08 シネカノン試写室
飼い主に捨てられた犬と、恋人に捨てられた男の物語。
話はわかりにくいが好印象の残る作品。by K. Hattori

 目下無職のフリーター岡村靖幸は、同棲していた恋人・古川美和が病気の母を看護するため部屋を引き払って郷里に戻ることになり、突然住む場所をなくしてしまう。彼女はこの機会に、不甲斐ない靖幸と別れてしまう決意だ。靖幸は美和との関係に未練を持ちつつ、行くあてもない自分自身の身体を持てあまして右往左往するばかり。そんな彼の前に現れたのは、飼い主に捨てられて行き場を失った1匹の野良犬だった。靖幸は人懐っこいその犬に、タムラという名を付ける。宿無しの靖幸に犬を飼う余裕などあるはずもないのだが、彼はその犬から離れられなくなってしまう。やがて偶然見ていたテレビでセラピードッグのことを知った靖幸は、わずかな望みを抱いて訓練所に向かうのだが……。

 主人公の靖幸を演じるのは『みんなのいえ』にも主演していたココリコの田中直樹。恋人の美和をりょうが演じ、その妹役に藤田陽子。靖幸の妹にはPuffyの吉村由美、その夫役にラーメンズの片桐仁。セラピードッグ訓練所の所長役に、国際セラピードッグ協会代表でもあるブルースシンガーの大木トオル。訓練士に唯野未歩子。他にもテレビや映画でお馴染みの顔が数多く出演している。監督は『おかえり』『忘れられぬ人々』の篠崎誠。篠崎作品の中では、おそらく最も出演者の顔ぶれが豪華な映画だと思う。

 話全体としては悪くないと思うのだが、もう少し背景説明がほしい映画だとも思う。例えば主人公の靖幸だが、まさか美和と同棲中にずっと無職だったわけでもあるまい。彼がこうまでダメな男になっているのには、何かしらの理由がほしい。でないと映画を観ていても、このダメ男が嫌いになってしまう。田中直樹の人柄だけでこの人物を好きになってもらうにしても、このダメっぷりは限度を超えているのではないだろうか。また映画の後半で物語の中心テーマになっていくセラピードッグやアニマルセラピーについても、もっと突っ込んだ説明や解説をしてほしいと思う。セラピードッグは盲導犬、聴導犬、介護犬などとどう違うのか。映画を観ていても、それが今ひとつよくわからない。

 セラピードッグがどういうものなのかよくわからないので、靖幸がタムラを美和の家に置いてきてしまうことの理由もよくわからない。映画を観ている限りでは、この場合タムラがセラピードッグの訓練を受けていなければならない理由はなさそうだ。単に「行儀のいい飼い犬」ということで構わないのではないのか。主人公と恋人の関係は修復するのか、それとも修復しないのか、あるいは修復など始めから望んでいないのか……。美和のもとに行ったはずのタムラは、なぜ靖幸のもとに戻ってくるのか。このあたりは脚本の組み立てがうまく行っていないのかわかりにくい。

 美和の妹の引きこもりが治るシーンなど、いささか話が都合よすぎる印象。これは演出の失敗だ。その前の姉妹の対話に力がないのだろう。

5月1日公開予定 新宿武蔵野館、銀座シネパトス
配給:アルゴ・ピクチャーズ
2003年|1時間45分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.argopictures.jp/inuto/
ホームページ
ホームページへ