アマンドラ! 希望の歌

2004/04/15 シネカノン試写室
世界で初めて「歌」が成し遂げた南アの反アパルトヘイト革命。
南アの黒人たちは歌と共に生きている。by K. Hattori

 南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策(合法的な人種差別)の誕生から終焉までを、抵抗運動の中で歌われた音楽という切り口からたどっていくドキュメンタリー映画。南アのアパルトヘイト政策は1948年に法律に明文化されてスタートし、その後段階的に、だが確実に、白人による黒人弾圧と搾取が進められていく。南ア人口の大多数を占める黒人たちは、政治権力と武力を独占する政府に圧迫される中で、数々の歌を作って政治家たちを挑発し、自らを鼓舞していた。この当時の南アでは、黒人ソングライターはそのまま政治運動家でもあったのだ。ミュージシャンたちは捕らえられ、投獄され、拷問され、殺された。この映画はそんな時代に投獄され処刑された黒人作曲家ヴァシレ・ミニの遺体が、40年ぶりに掘り出されるところから始まる。

 南アのアパルトヘイト政策はその初期から国際的な非難を浴びていたが、1980年代後半には国内で非常事態宣言が出され、国外からも集中豪雨的な批判にさらされるという状態だった。1987年に作られた『遠い夜明け』という映画は、反アパルトヘイト運動の指導者スティーブ・ビコを主役にした実録映画だった。こうした映画が作られて商業的に成功したと言うこと自体が、この時代の国際的な反アパルトヘイトの動きを証明している。90年にネルソン・マンデラが28年ぶりに釈放されたときは、南アの黒人だけでなく、世界中が狂喜したものだ。

 ちょうど同じ頃、「サラフィナ!」という南ア生まれのミュージカルが世界中で話題になっていた。(日本でも来日公演をした。)アパルトヘイトの中で抵抗運動をする高校生たちが捕らえられ、拷問され、運動が散り散りになりながら、ネルソン・マンデラの釈放を待ち望む物語。92年に作られた映画版は、政治闘争の中で主人公たちが歌ったり踊ったりする様子に違和感がありすぎて、僕はあまりよい出来の映画とは思えなかった。ところが今回『アマンドラ!』を観ると、『サラフィナ!』に描かれていた出来事がそっくりそのまま現実に起こったことであること知って驚いた。南アの黒人たちはアパルトヘイトへの抵抗運動の中で、ミュージカル映画でもないのに歌ったり踊ったりしていたのだ!

 映画は抵抗運動の中で歌われていた歌が、やがて抵抗運動の主役になっていったことを教えてくれる。反政府運動家たちがジンバブエから持ち込んだ「トイトイ」という激しい歌と踊りが、銃を持った警官たちを恐慌状態に陥れるのだ。リズミカルに力強く両足で地面を踏みならしながら、大声で歌う群衆が「ウスウス」と合いの手を入れつつ迫ってくるのだ。一度は挫折した反政府運動が、この歌と踊りで息を吹き返し、ついには白人支配を覆す革命を成し遂げる。「南アの革命は世界で初めて歌と踊りが成し遂げた革命だ」と語る運動家の言葉には説得力がある。『サラフィナ!』を今観たら印象が違うかも。

(原題:Amandla!: A Revolution in Four Part Harmony)

夏公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ(レイト)
配給:クロックワークス 宣伝:スローラーナー
2002年|1時間44分|南アフリカ、アメリカ|カラー|アメリカンビスタ
関連ホームページ:http://www.klockworx.com/
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