堕天使のパスポート

2004/04/23 イマジカ第2試写室
ロンドンのホテルに集まる不法滞在者を描く社会派サスペンス。
邦題の意味がちょっとわかりにくい。by K. Hattori

 『アメリ』のオドレイ・トトゥ主演というのがウリの映画だが、彼女は重要な脇役といったポジション。映画はイギリスに集まる外国人移民や難民たちの、過酷な生活ぶりを描いている硬派な社会派作品だ。監督のスティーヴン・フリアーズはこうした社会派の映画でも娯楽映画としての味付けを忘れない人。この映画でも「ホテルのトイレの中から見つかった人間の心臓」というミステリアスな小道具を使って、主人公たちを犯罪スリラーの世界に引き込んでいく。

 ロンドンに不法滞在しているナイジェリア人のオクウェは、昼間はタクシーの運転手、夜はホテルの受付係として働いている。同じホテルでメイドをしているトルコ人シェナイのアパートが、オクウェの昼間のねぐらだ。オクウェはある夜、ホテルの客室のトイレで人間の心臓を見つける。警察に届けようとする彼に対し、ホテルの支配人ファンは「夜に起きたことは朝になったら忘れろ」と言い捨てる。やがてわかってきたのは、ホテルが臓器売買の拠点になっている事実だった。ファンは不法滞在者に偽造パスポートと金を渡すことと引き替えに、生身の臓器を切り売りさせているのだ。オクウェがナイジェリアで医者をしていたことを突き止めたファンは、彼を自分のビジネスに引き込もうと画策する。一方シェナイは移民局に不法就労をとがめられ、ホテルを辞めざるを得なくなる……。

 主役クラスの登場人物たちは、ほとんどが外国人という設定だ。ホテル支配人のファンは、名前からしてスペイン人だろうか(演じているセルジ・ロペスはスペインの俳優)。オクウェの働くタクシー会社もほとんどが外国人らしいし、病院で働く友人は中国人、ホテルのドアマンを演じているのはクロアチア人の俳優、ホテルで働くメイドたちも外国人が多い。彼らは確かにそこに存在しているのに、一般の人々にはまったく目に付かない透明人間のような存在だ。例えばシェナイを調べに来た移民局の職員は、ホテルで働くオクウェ以下多くの不法労働者を見ても、それを完全に無視している。

 不法滞在者という弱みにつけ込まれて、徹底的に追いつめられていくオクウェとシェナイ。特にシェナイの悲惨な境遇は、観ていて「そこまでしなくても」と思ってしまう。でもここまでやらないと、主人公たちの行動が正義の味方のようになって具合が悪い。これは彼らの個人的な「復讐」でなければならないのだ。彼らの行動は一種の正当防衛でもあり、たとえそれが社会的な正義の実現に役立っているとしても、動機は社会正義とは無関係なのだ。こうすることで、彼らは身の丈を超えた正義のスーパーヒーローになることを避けている。

 社会派映画と活劇のバランスをどこで取るのかが難しい映画だとは思うが、もう少し活劇に重きを置いた方がよかったのではないだろうか。中盤までのどうしようもない閉塞感が、映画を観た後も残ってしまう。

(原題:Dirty Pretty Things)

夏休み公開予定 シャンテ・シネ
配給:東芝エンタテインメント
2002年|1時間37分|イギリス|カラー|ビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.datenshi.jp/
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