ラブ キル キル

2004/04/28 映画美学校第1試写室
ハローワーク勤めの男が仕事探しの女に一目惚れ!
物語の主人公が突如交代する面白さ。by K. Hattori

 「映画番長」シリーズ第2弾「エロス番長」の中の1本。監督はこれが長編初監督となる西村晋也。出演は最近CMにまで出演している津田寛治、ロリータ系の人気AV女優の愛葉るび、テレビドラマの出演が多い街田しおんなど。出だしが少しドタバタするのが気になるが、風変わりな恋愛コメディとしてなかなか見応えのある映画だと思う。

 物語の舞台は海辺にある寂れた地方都市。ハローワークの職員をしている皆川聡は、就職相談に来た前嶋サユリに一目惚れ。仕事以外に何とか彼女と個人的にお付き合いしたいと、とりあえず彼女の住所をメモ帳に控える。公私混同のストーカー行為だ。仕事の帰り道にメモを頼りに彼女の家を探す皆川を、物陰からじっと見張っている少女ナオ。彼女は近くのアダルトショップから、彼をずっと付けてきたのだ。ナオと親しくなった皆川は、彼女にサユリの家の偵察を頼む。それから数日後、ナオはサユリの弟の友だちとして、ちゃっかりサユリの家に上がり込んでいた……。

 津田寛治演じる皆川が物語の主役だと思っていると、途中から愛葉るび演じるナオに主役をバトンタッチするという構成。このふたりの主役に観察されている対象が、街田しおん演じるサユリとその弟だが、このふたりは最後まで主役になることはない。ドラマの主体はあくまでも皆川とナオなのだ。

 ナオは皆川を興味深げにつけ回してついに部屋に上がり込むようになるのだから、彼にたいして何かしらの好意は持っているのだろう。サユリに一目惚れしてナオに彼女の調査を依頼する皆川にしても、ナオに対して悪い印象を持っているわけではない。だとすればいろいろあって皆川がサユリに振られたあと、皆川とナオがくっつくのかな……と、おそらくは誰もが予測するはずだ。少なくとも僕はそう予測した。これはありふれた三角関係のドラマなのだろう。最後は口に出さずに主人公を慕っていた少女が、彼の愛を獲得するのだと……。だがこうした予想は、途中であっさりと裏切られてしまう。その瞬間から、物語の主役はナオにバトンタッチされるのだ。

 親から譲り受けたのであろう一軒家で暮らす前嶋姉弟や役所勤めの皆川に比べ、確固たる生活の基盤を持たないナオはあまりにも頼りなげに見える。だが映画が終わってみると、物語の中にたったひとり残るのはナオなのだ。彼女はそこに、残るべくして残っているように見える。小さな身体で地面をぎゅっと踏みしめ、ファイティングポーズを取るナオの姿で映画は終わる。彼女はこれからもこの小さな寂れた町で、愛の対象になる誰かを見つけて生きていくに違いない。

 津田寛治の変態ぶりがあまりにも自然で、つい笑ってしまった。「だって結婚前に相手のことを調べるのは当たり前だろ?」と、自分のストーカー行為に何の疑いも持っていないのがいい。きっとストーカーをしている人って、こうなんだろうなぁ……。

7月上旬公開予定 ユーロスペース
配給:ユーロスペース 宣伝:イメージリングス
2004年|1時間31分|日本|カラー|DV|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.eurospace.co.jp/
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