ゲート・トゥ・ヘヴン

2004/05/14 TCC試写室
ドイツの国際空港を舞台にした風変わりで痛快なラブコメディ。
インド映画ばりのミュージカルシーンあり。by K. Hattori

 パイロットを目指してロシアからドイツに密入国しようとしたアレクセイは、フランクフルト空港に併設されている不法入国者収容所からまんまと脱走。だがその手引きをしたダックは、不法入国者たちを空港施設で奴隷のように働かせて私腹を肥やすひどい男だった。でもアレクセイはめげない。仕事はきついが、同じ境遇の仲間たちもいる。それに彼は恋をしたのだ。相手は空港で清掃の仕事をしているインド人ニーシャ。彼女の夢は、インドに残してきた息子を呼び寄せることだった。彼女はより安定した収入を得るため、空港の幹部にスチュワーデスの研修が受けられるよう願い出る。だがこの幹部はとんでもない女たらし。しかもインドではニーシャの別れた夫が、子供を奪おうとしていた。かくなる上は、子供を急いでドイツに密入国させるしかない!

 物語の舞台はほとんどがフランクフルト空港周辺のみなのだが、地下に広がる迷路のような設備、清掃と整備点検のために待機している飛行機、不法入国者たちの収容施設、世界中から大勢の人たちが集まるロビー、手荷物の集積所、従業員たちのための食堂、管制塔などなど、空港内のありとあらゆる場所が登場するため、限定された空間が舞台になっているという狭苦しさは感じられない。むしろこの映画に登場する空港は、それだけで完結するひとつの世界になっている。実用一点張りで作られているはずの空港が、まるで巨大な遊園地のように見える面白さ。この映画を観た人は誰しも、空港の地下を縦横に走り回るベルトコンベアに乗ってみたいと思うはずだ。

 監督は『ツバル』のファイト・ヘルマー。アレクセイを演じるのはロシアの俳優ヴァーレラ・ニコラエフ。ニーシャ役はインド人の女優マースミー・マヒージャ。他にも旧ユーゴ出身のミキ・マノイロヴィチや、ドイツの国際俳優ウド・キアー、マリ出身のソティギ・クヤテなど、国際色豊かなキャスティング。キャスティングにあたっては14の国のキャスティング会社が参加し、各国から20〜30人の俳優が出演しているという。

 ロシア人の不法就労者とインド人の清掃作業員を主人公にしたラブコメディと聞いても、まるでどんな映画になるか想像できないと思う。たぶん同じ主人公たちから、イギリスの監督(ケン・ローチやマイケル・ウィンターボトム?)なら陰々滅々とした社会派映画を作ることだろう。でもこの映画はそうなっていない。とにかく明るく、未来への希望に満ちている。『ゲート・トゥ・ヘヴン』というタイトルに偽りなし。空港はそれぞれに用意された「天国」までの、一時的な待機場所なのだ。(ただし中にはそこから本当に“天国”に行ってしまう人たちもいる。)

 映画の途中で1ヶ所インド映画が引用されるのだが、これは『シャー・ルク・カーンのDDLJ/ラブゲット大作戦』。日本ではビデオにもDVDにもなっていないのが残念。

(原題:Gate to Heaven)

夏休み公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:アルシネテラン
2003年|1時間30分|ドイツ|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/
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