ある日、突然

2004/05/20 映画美学校第2試写室
アルゼンチンの若い監督が撮った少女3人のロードムービー。
テーマが絞り込めていないのが残念。by K. Hattori

 アルゼンチンの首都ブエノスアイレスでランジェリー店に勤めるマルシアは、ぽっちゃり体型をかなり通り越した女の子だ。親しい友人は特におらず、恋人もいない。そんな彼女の前に突然現れたのは、パンクファッションの女の子ふたり組マオとレーニンだった。ふたりはマルシアをナンパする。「ねえ、あたしと寝ようよ」と言うマオを振り払って逃げようとするマルシアだが、突然ナイフをちらつかせるレーニンを見れば足がすくむ。マルシアはふたりに引きずられるように、ロザリオの町を訪れることになる。そこにはレーニンの大叔母が暮らしているというのだが……。

 監督はアルゼンチンの新人監督ディエゴ・レルマン。出演している女優は監督と同じ劇団から選び、スタッフは無休で働く監督の友人たちという人員構成。スタッフは平日に他の仕事をしているため、平日は役者のリハーサルとコンテ作り、週末に撮影というスケジュールで製作が行われたという。撮影が半ばを過ぎたところで、製作資金が切れて撮影が一時中断されるという憂き目にもあっている。だがそうした苦労の末に完成した映画は、ブエノスアイレス国際映画祭で観客賞と審査員特別賞を受賞。その後も各地の映画祭で様々な賞を受け、ロカルノ国際映画祭では準グランプリと特別賞を受賞することになった。

 映画は前半と後半とで雰囲気ががらりと変わる。前半はマルシアがふたり組の少女にナンパされ、拉致同然に旅に連れ出される話。映画の後半でレーニンの大叔母が出てきてからは、マルシアの立ち位置が少し後退して、レーニンとマオが全面に出てくる。ここで見えてくるのは、マルシアと同じぐらい孤独で悲しいマオとレーニンの姿だ。母親と折り合いが悪くて家出中のレーニン。誰かに愛されたくて仕方がないのに、いざ誰かが気持ちを寄せるとそれを拒絶してしまうマオ。みんなひとりぼっちなのだ。

 次から次に意外なことが起きる映画で、一瞬も目が離せない。特に映画の前半は、とてつもなく暴力的な映画になりそうな「予感」を漂わせている。マオとレーニンがやばすぎる。路上でバイクを盗んで乗り回したあげく、さっさと売り払って一稼ぎ。タクシーに乗れば運転手の首筋にナイフを突きつけて車を奪い、トラックに同乗させてもらう時は「あいつがフェラするよ」などと本人の同意も得ないまま勝手に運転手と交渉する。とにかくやり方がいちいち荒っぽいのだ。映画を観ている側は「これはどこかで血を見るぞ」と思う。実際に「血」は流される。だがそれがどんな形で流されるのか、観客はまったく予想もできないだろう。(僕は映画を観ていても何が何だかさっぱりわからなかった。)

 青春の暴走、人間の孤独、恋愛の残酷さ、出会いの不思議など、いろいろなテーマが含まれている映画だが、最終的にどのテーマが描きたいのだろう。映画がスッキリしないのは、モノクロ映像のせいではないと思う。

(原題:Tan de repente)

7月公開予定 シネ・アミューズ
配給:ザジフィルムズ
2002年|1時間33分|アルゼンチン|モノクロ|1:85ヴィスタ/ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.zaziefilms.com/totsuzen/
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