映像詩人ユーリー・ノルシュテインと
ロシアアニメーションの世界

2004/05/20 TCC試写室
ロシアのアニメ作家ユーリー・ノルシュテインの特集上映。
さっぱり話がわからない『話の話』の面白さ。by K. Hattori

 ロシアのアニメーション作家ユーリー・ノルシュテインの作品を中心に、旧ソ連時代からの代表的なロシアアニメの数々が一斉上映される。今回はその中から、ノルシュテインの作品ばかりを集めて試写が行われた。上映されたのは『ケルジェネツの戦い』『狐と兎』『あおさぎと鶴』『霧の中のハリネズミ』『話の話』など。劇場で公開する際はこれを親子向けのAプログラムと、大人向けのBプログラムに分け、それぞれ他の作家の作品を幾つか追加して上映するようだ。じつは今回、映画を観ているうちについウトウトしてしまったのだが、そんなことも含めて描く作品の感想。

 中世ロシアの細密画をもとに、10世紀にキエフ公国軍が国家統一をはたした史実を映画化したのが『ケルジェネツの戦い』。写真技術で写しとられた細密画を切り紙人形のようにして動かしているのだが、群衆シーンなどでは紙人形を立体的に配置して三次元空間を作っているのが面白い。味方の勇壮な騎馬部隊に対して、未知の野生動物を思わせる敵軍の描写は不気味。

 『狐と兎』はキツネに住まいを奪われたウサギの物語だが、最後に家を取り戻すのが小さな雄鶏だというところが面白い。ウサギがしくしく泣くシーンがかわいい。キツネが氷の家に住んでいるというのもユニーク。雄鶏のパイプがいい味を出してる。

 『あおさぎと鶴』は延々と堂々巡りを続ける恋のすれ違いのドラマ。滑稽ではあるけれど、こういうことって世の中によくあるよなぁ……と思ったりもする。結論を出すことなく、ふたりは今もすれ違いの行き来を続けていると述べて物語を閉じるところもいい。

 残念なことに『霧の中のハリネズミ』はウトウトしてしまった。霧の中から次々に現れては消える動物や事件をながめているうちに、こちらの意識も霧の中……。いつか機会があったらきちんと観てみたい作品。

 『話の話』は今回の上映の中では一番の大作。上映時間は30分なのだが、これはものすごい深みを持った作品だった。複数のエピソードが変奏曲のように幾度も形を変えて繰り返され、最後は意外な結末を迎える。廃屋で暮らすつぶらな瞳の狼の子供が狂言回しになって、母親のおっぱいを吸う赤ん坊、牛と少女のなわとび、女たちと別れて戦場へ行く男たち、ベンチの男女と木の上でリンゴを食べる少年などが現れては消える。一番印象的なのは、たき火でジャガイモを焼いた狼の子が、イモをフーフー吹いて食べる場面。

 アニメーション制作というのは精緻で論理的な作業であり、実際の制作作業に入ればそこに気まぐれや思いつきが入り込む余地はないはずだ。ところが『話の話』は、エピソードのつながりがまるで気まぐれで、論理性がまるで感じられない。作り手のイマジネーションが、そのままフィルムに刻みつけられている。眠っている時に見る夢のような、理屈も辻褄もなにもないイメージの羅列。これはすごい。

7月18日公開予定 ラピュタ阿佐ヶ谷
配給・宣伝:ふゅーじょんぷろだくと、ラピュタ阿佐ヶ谷
宣伝協力:アルゴ・ピクチャーズ
1968-1979年|旧ソ連、ロシア|カラー
関連ホームページ:http://www.comicbox.co.jp/norshtein/roadshow/
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