ムーンライト・ジェリーフィッシュ

2004/05/26 東芝エンターテインメント試写室
藤原竜也主演のヤクザ映画版『ギルバート・グレイプ』。
脚本段階で疑問が多すぎる。by K. Hattori

 大河ドラマ「新選組!」で沖田総司を好演している藤原竜也が、難病の弟を持つ若いヤクザを演じた作品。共演はホリプロの新人・木村了と岡本綾。監督・脚本に編集までこなしたのは、コメディ映画『HERO? 天使に逢えば…』も間もなく公開される鶴見昴介。じつはこの『ムーンライト・ジェリーフィッシュ』の方が初監督作品だという。『HERO?』にお調子者の悪魔役で登場した虎牙光揮が、凶暴なチャイニーズ・マフィアの役で本作にも出演している。役柄は正反対だが、印象はあまり変わらないなぁ……。

 物語はヤクザ版『ギルバート・グレイプ』だ。知的障害を持つ弟を抱えて、自分の人生を棒に振っていると考えている青年が、ひとりの女性と出会い恋をすることで積極的な未来を歩もうとする。だがそこはヤクザ映画だから、主人公はそうやすやすと自分の生きたい人生を歩み出すことはできない。暴力の世界に生きてきた主人公は、最後の最後に暴力の世界で自滅していってしまうのだ。タイトルの『ムーンライト・ジェリーフィッシュ』とは、月夜の海に浮かぶクラゲのこと。映画の中では主人公の弟が色素性乾皮症(XP)という難病で、太陽の光を直接浴びられないという設定。これと夜の闇の中で漂うように生きるヤクザという境遇を重ね合わせて、月夜のクラゲにたとえている。クラゲは水から出て生きることができない。

 発想の良し悪しはともかく、脚本段階での詰めがまるで甘すぎてお話にならない映画だと思う。主人公は難病の弟を抱え込んで苦労しているのだが、なぜ彼は弟を施設に入れたり、付ききりで看護する人を雇おうとしないのだろう。ヤクザをやっていて羽振りはいいのだから、それぐらいの経済的な余裕はあるはずだ。弟を他人の手に委ねることに何らかの心理的な抵抗があるのなら、それについてきちんとした説明が映画の中でなされるべきだろう。かつて施設に預けて酷い目にあったとか、部屋の中に人を入れてとんでもないことが起きたとか、何かしらの説明があれば映画を観ている人間はそこで納得できる。

 岡本綾演じる若い看護婦が、主人公に惚れ込む理由もよくわからない。酒場でたちの悪い客から守ってくれたから? 病院で弟を世話する様子を見て、放っておけなくなってしまった? どっちも陳腐な理由だね。現実の世界では恋のなれそめなどその程度のものでもいいかもしれないが、映画の中で演じられる恋のキッカケは、もっと印象的なものを作ってほしいのだ。主人公たちが恋に落ちる瞬間に説得力がないから、この映画のヒロインはひとりではしゃいで熱を上げているように見える。このヒロインが恋をしたのは「運命の出会い」のせいではなく、単にホルモンの問題じゃないの? 彼女は恋をしているのではない。発情しているのだ。

 最初から最後まで深刻ぶってばかりいる物語は、途中で観ているのが退屈になってくる。一本調子でメリハリがないのだ。これじゃ出演者が気の毒。

8月7日公開予定 新宿トーア
配給:ポニーキャニオン
2004年|1時間53分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.ponycanyon.co.jp/
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