彼女の人生の役割

2004/06/18 パシフィコ横浜
小説家志望のヒロインが大女優の付き人になるが……。
もう少しドラマにメリハリがほしい。by K. Hattori

 小説家志望のクレールは、パリにある有名ファッション誌の編集部で見習記者のような仕事をしている。面倒な仕事を押しつけられても決して嫌そうな顔を見せないクレールは、編集部の中で雑用係のような職に甘んじていた。だが編集部に来ていた女優エリザベットを車で送る役目を押しつけられたことは、彼女の人生に大きな転機をもたらすことになった。エリザベットは控え目なクレールをいたく気に入り、自分の身の回りを世話する付き人に雇うことにしたのだ。最初は仲の良かったふたりだが、やがてエリザベットは控え目すぎるクレールの性格に物足りなさを感じ、イライラするようになってくる。

 フランソワ・ファヴラ監督の長辺デビュー作。女優エリザベットを演じるのはアニエス・ジャウイ。クレールを演じるのはカリン・ヴィアール。ジャウイは日本でも出演作が何本か公開されている有名女優だが(映画監督でもある)、今回演じた「大女優」という役柄があまりピンとこない。彼女は素晴らしい女優だと思うけれど、「私は女優でございます!」というオーラを放つタイプではないように思えるのだ。カリン・ヴィアールと並んでも、映画が本来意図している明暗のコントラストが生まれない。この女優役をもっと圧倒的な存在感のあるタレントが演じていると、映画自体の力も強まったと思う。

 地味に生きてきた女が最後には本人なりの成功を勝ち取り、彼女を支配してきた女が結局はすべてを失うというわかりやすいドラマ展開。ただしこれは上昇と下降のドラマというわけでもない。そもそもすべてを持っていたかに見えた女優は、最初から何も持っていなかったのだろう。持っていないというより、最初から彼女は何かを持てるような性格ではないのだ。次々に新しいものを求めて動き回り、何かを手に入れたことに満足するとすぐにそれを放り出してしまう。結局エリザベットの手元には、最後は何も残っていないのだ。少々寂しくはあるが、これを不幸とも言い切れまい。エリザベットの成功は、こうした性格の上に成り立っているからだ。

 映画にはエリザベットの恋人になる造園技師が登場し、クレールとの間で三角関係にも似た微妙な人間関係が生じる。しかしこの造園技師が、あまり物語の芯に食い込んでこないのは少々物足りない。彼とエリザベットの関係をもっと密に描けば、エリザベットの性格はもっとくっきりと際立ったものとして描写できたのではないだろうか。

 化粧気のない地味な女だったクレールが、エリザベスのそばでどんどん美しく返信していく様子が丁寧に描かれているのだが、これはもう少しメリハリを付けた方がわかりやすくなったはず。彼女がエリザベスから離れる決意をするに至る過程も、もう少しドラマチックに描いてもよかった。そうすれば最後に主人公たちが再会して一定の和解をするシーンが、よりしんみりとした情感に包まれたと思う。

(原題:Le Role de sa vie)

6月18日上映 パシフィコ横浜
第12回フランス映画祭横浜2004
配給:未定
2003年|1時間50分|フランス|カラー
関連ホームページ:http://www.unifrance.jp/yokohama/
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