怪談新耳袋[劇場版]

2004/06/30 TCC試写室
8つのエピソードから構成された怪異オムニバス。
「夜警の報告書」と「ヒサオ」は面白い。by K. Hattori

 木原浩勝と中山市朗が取材した実録怪談集「新耳袋」を原作に、BS-i(TBS系のBSデジタル局)で放送されていた「怪談新耳袋」の劇場版。テレビ放送された作品から選ばれた数本に、劇場用に撮り下ろされた数本を組み合わせた全8話の構成。放送リストを手がかりにする限り、「夜警の報告書」「重いッ!」「姿見」はテレビ作品で、残りが劇場オリジナルなのだろうか。「夜警の報告書」は数回に分けて放送されたものを、1本に編集し直してあるようだ。テレビ版は5分程度の短編がベースだが、今回の劇場版では結構長い作品も多い。特に最後を飾る「ヒサオ」は、烏丸せつこの一人芝居を堪能させる力作だ。

 試写を観る前に受付にいた配給会社の人から「断っときますけど恐くないですよ」と言われていたのだが、そもそもタイトルに「怪談」とか「耳袋」と入っているのだからそれも当然のような気がする。そもそも「怪談」とは幽霊や妖怪についての話も含めた、不思議な話や奇妙な話全般を指す言葉で、有名な怪談集である上田秋成の「雨月物語」や小泉八雲の「怪談」には、幽霊も妖怪も出てこない不思議な話がいくつか含まれている。「耳袋」というのは江戸時代に根岸鎮衛(やすもり)という武士が書いた随筆で、中身は当時の庶民の間で「事実」と信じられていた噂話の類が集められている。もののけや怪談の話もあるが、有名人にまつわる話、笑い話、教訓話など、中身は雑多なものなのだ。

 今回の『怪談新耳袋[劇場版]』は、もちろん「ホラー映画」に分類するしかないような、恐ろしい話や怖い話も含まれている。でも恐さよりも不思議さや不気味さを強調するエピソードも多い。例えば人間が文字通り煙のように消えてしまう「残煙」には幽霊も妖怪も登場しないし、高級マンションで留守番役の青年に女の声が呼びかける「約束」は、恐い以前にユーモアが感じられるではないか。「夜警の報告書」に登場する肝っ玉が太いのか単に鈍いのかよくわからない警備員も、観ている人をついつい笑わせずにはいないだろう。生霊をモチーフにした「手袋」は不思議な話だろうし、「重いッ!」は夜中に金縛りにあった人間が見た幻影のようにも思える。

 全8エピソードの中で一番恐いのは幽霊が写ったビデオをテーマにした「視線」だが、これはあまりにもホラーテイストが強くて、他のエピソードから浮き上がっているようにも感じた。同じ恐さ狙いでも、観客を笑わせる「夜警の報告書」や、ショック描写のみ一発勝負の「姿見」の方がいいかも。「手袋」は説明が理に落ちすぎていてかえって退屈。「残煙」と「重いッ!」は意味不明だが、かえってそれがいいのかな。「約束」のバカバカしさも大好きだ。

 作品としての完成度が最も高いのは、最終話の「ヒサオ」だろうか。これは舞台劇の一人芝居を観るような迫力がある。これも幽霊や妖怪が出てこない話だ。

8月中旬公開予定 渋谷シネ・ラ・セット
配給:スローラーナー
2004年|1時間32分|日本|カラー|HD
関連ホームページ:http://www.actcine.com/sinmimi/
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