ジャスティス

闇の迷宮

2004/07/07 映画美学校第2試写室
1970年代後半にアルゼンチンで多発した失踪事件の闇。
実録とフィクションの不思議な融合。by K. Hattori

 『エビータ』で有名なアルゼンチン大統領フアン・ドミンゴ・ペロンが74年に死去した後、アルゼンチンはそれ以前にも増して政治的な混乱を迎える。76年には軍によるクーデターでビデラ政権が発足。政府は左翼ゲリラに徹底的な弾圧を加えると同時に、反政府活動家や政府に批判的な人々を次々に捕らえていった。ある日突然、自宅や路上で身柄を拘束され、何も手がかりを残さないまま「失踪」していく市民たち。軍政下の10年間に、アルゼンチン国内で失踪した人の数はおよそ3万人と言われている。

 ブエノスアイレスの女性新聞記者セシリアは、マスコミがまったく黙殺している「失踪者」についての記事を新聞に掲載したことから逮捕され、自らも「失踪者」のひとりになってしまう。後に残されたのは、児童劇団を主催する夫カルロスと一人娘のテレサ。カルロスは妻について警察に掛け合うが、「家出だろう」とまったく相手にしてくれない。それから数ヶ月たったある日、カルロスは自分に不思議な能力が授かっていることに気づく。それは身内に失踪者がいる人に触れると、失踪者の逮捕の様子やその後の運命が見えるという透視能力だった……。

 政治的に混乱する南米での民間人失踪を描いた映画としては、コスタ=ガブラス監督の『ミッシング』や、オリバー・ストーンの『サルバドル』などが既にある。これらはすべて実話がモデル。本作『ジャスティス』もアルゼンチンでの民間人失踪という事実をもとにしたドラマだが、主人公に不思議な力を与えることで一般的な実話映画とは毛色の違うものになっている。『ミッシング』の実録政治スリラーと、『デッドゾーン』の超能力スリラーが組み合わさっているのが本作なのだ。

 主演はアントニオ・バンデラス。妻セシリアを演じるのはエマ・トンプソン。1987年に発表されたローレンス・ソーントンの小説をもとに、『キャリントン』や『シークレット・エージェント』のクリストファー・ハンプトンが脚色・監督している。ちなみに前者は伝記映画で後者は政治スリラー。今回の映画はハンプトン監督にとって、得意なジャンルの作品だったのかもしれない。

 この映画は主人公に透視能力を与えることで、主人公一家に限らない多くの失踪者の悲劇を、観客が追体験したり目撃したりすることができる。主人公の事実究明の歩みが超能力によって加速・飛躍し、ストーリーの転がりもよくなっている。ただ「超能力」という要素が、物語から生々しい現実味を一部取り去っているのも確かだ。主人公の目撃したものが、はたして現実なのか、それとも幻視なのか、それがわかりずらい。友人が失踪した翌日、1ヶ月後に彼が死ぬことを「過去形」で語るような場面になると、観ていて少し違和感を感じたりもする。居場所がわかるなら、妻の場合と同じように助ける努力をすればいいのに。友だちはまだ死んでないんですけどね。

(原題:Imagining Argentina)

8月28日公開予定 シネマ・メディアージュ
配給:ファインフィルムズ
2003年|1時間47分|アメリカ、アルゼンチン、スペイン、イギリス|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.finefilms.co.jp/
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