やさしい嘘

2004/07/07 スペースFS汐留
息子の死を母に知らせまいとするグルジア人家族の話。
祖母役のエステール・ゴランタンが最高。by K. Hattori

 ソ連崩壊のあおりですっかり経済活動が停滞してしまったグルジアに、女ばかり3代で暮らす家族がある。祖母のエカはフランスに働きに出た一人息子オタールからの手紙を心待ちにしているが、エカの娘マリーナは自分と弟がいちいち比較されるのがしゃくのタネ。孫娘のアダはそんな祖母と母のいさかいをながめながら、自分の生きる道を模索している真っ最中だ。ところがたまたまエカが留守をしている家に、パリから悲しい知らせが届く。建設現場で働いていたオタールが事故死したというのだ。息子からの便りを生き甲斐にしているエカおばあちゃんに、こんなことはとても話せない。マリーナとアダは死んだオタールのかわりに、エカおばあちゃんにパリでの近況を知らせる手紙を書き続けるのだが……。

 監督・脚本はこれがデビュー作となるジュリー・ベルトゥチェリ。祖母を演じるのは99年に85歳で映画デビューして以来、さまざまな映画に引っ張りだこのエステール・ゴランタン。マリーナ役はグルジアの女優ニノ・ホマスリゼ。孫娘のアダを演じるのはロシア出身の女優ディナーラ・ドルカーロワ。物語の舞台はほとんどがグルジアだが、フランス、ポーランド、グルジア、ロシアなど、さまざまな地域からの出身者が集まる映画になっている。劇中で使われているのはグルジア語、ロシア語、フランス語など。ただしこれは、聞いていても違いがよくわからないのだけれど……。

 主役の3人の女性たちが、三者三様に豊かなキャラクターとして描かれている。エカおばあちゃんは単なる頑固者ではないことがすぐにわかるし、母や弟に乱暴な口をきくマリーナも本当は母や弟を心から愛していることが伝わってくる。自分の生き方を探そうにもグルジアでは出口が見つけられないアダの葛藤は、映画の結末をうながす重要な伏線となる。どの人物もまるでそこに生きているようにリアルでありながら、ストーリーの骨組みはしっかりとして、冗長なところもなければ、説明不足なところもない。なんとも見事に均整の取れた映画に仕上がっている。

 映画のテーマはどの世界にも存在する「親子や家族の愛情関係」だが、この物語を固有のものとして成立させているのは、グルジアという国の社会的な貧しさだ。すぐに停電になる。シャワーの水が止まる。工場は資金不足で操業停止。若者たちにはまるで働き口がない。戦争や社会制度の大転換が、国全体に大きな傷跡を残している。ここでは「希望」を見つけるために、国の外に出て行くしかない。パリから便りを寄越すオタールは、一家にとってかけがえのない「希望」だったのだろう。

 邦題の『やさしい嘘』はいいタイトル。これはマリーナとアダが捏造したパリからの便りのことでもあるのだが、もっともこのタイトルの意味が伝わってくるのは映画の最後になってから。僕はここでホロリと来ました。エカおばあちゃん、最高です!

(原題:Depuis qu'Otar est parti...)

今秋公開予定 シャンテシネ
配給:東芝エンタテインメント
2003年|1時間42分|フランス、グルジア|カラー|ヴィスタ|SRD
関連ホームページ:http://www.yasashii-uso.com/
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