東京伝説

蠢く街の狂気

2004/07/15 映画美学校第2試写室
サスペンス映画としてはあちこちに穴がありすぎる。
ヒロインにまったく共感できません。by K. Hattori

 友人の萌とふたりでデザイン事務所を開いている大沢裕美子に、差出人のない1通の封筒が届いた。中に入っていたのは、「おまえはおれとけっこんする」と書かれた紙切れ。これが裕美子の遠い記憶を呼び覚ます。彼女は中学校時代に転校生の御厨から、同じような手紙を受け取ったことがあったのだ。手紙は破いて相手に突き返したが、その手紙がちょうど今受け取った手紙にそっくりだった。このことを知っているのは、自分と御厨だけのはず。御厨はその後再び転校し、その後事件を起こして少年院に行ったという噂がある。その後も裕美子のもとに次々送られてくる不気味な荷物。意を決した裕美子は友人ミカの協力を得て、御厨のその後を調べ始めたのだが……。

 ホラー映画だと思って観ていたのだが、中身は超常現象のまったく出てこないスリラー映画だった。ただしストーリーはかなり退屈。美しいヒロインに一方的に思いを寄せる異常者という設定はありきたりだし、登場人物たちの造形も平板すぎる。そして何よりもこの映画をつまらなくしているのは、スリルやサスペンスを高めるために絶対必要な「穴ふさぎ」の作業を、まったくしていないことだ。こうした話の場合、ヒロインを絶体絶命の窮地に追い込まなければならない。ありとあらゆる手をつくして恐怖から逃れようとするヒロインを、袋小路に追いつめていく細心の技術が必要なのだ。

 なぜヒロインは警察に相談しないのか? 知り合いの編集者が「そのぐらいのことで警察は動いてくれへんで」という台詞には、まったく説得力がない。彼女のもとには、既に気味の悪い荷物がいくつも届いているからだ。相棒のデザイナーに電話をするのもいいが、同時に警察にも電話をするべきではないのだろうか。その上で警察が「現時点で事件性は認められない」と言えば、それで観客は納得する。警察に見捨てられたヒロインが、たったひとりで犯人と対決しなければならないという話に必然性が生まれる。なぜ脚本はそうなっていないのだろう。

 「警察に行け!」というのは、このヒロインに残されている最大の逃げ道だ。その逃げ道がうまくふさがっていないから、それに気づかないヒロインは「こいつ馬鹿じゃないの?」ということになる。愚かなヒロインが、頭のおかしな男につかまってどんなに酷い目に遭わされようと、それは自業自得ではないのか。もう勝手にして頂戴!

 それにしても、この映画の恐怖描写はユニークなものだ。口の中にイソメ(釣りエサ)を入れるのは、恐怖云々以前に気持ち悪いよ。イソメをヒロインの顔に押し当てるシーンは、釣りをする人ならニオイを想像して嫌な気分になってしまうかも。犯人の男がヒロインと布団袋に入って坂道を転がり落ちるシーンは、これがなんで恐いのかまったく疑問。こういうのって、子どもが喜びそうだよな。でも危険ですから、横の皆さんは決してまねをしないでください。

9月11日公開予定 渋谷シネ・ラ・セット
配給:竹書房 宣伝・問合せ:竹書房映像企画部、シネマ・クロッキオ3RD
2004年|1時間18分|日本|カラー|ビスタサイズ|デジタル・ムービー
関連ホームページ:http://www.takeshobo.co.jp/
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