歌舞伎町案内人

2004/07/16 映画美学校第2試写室
歌舞伎町で中国人相手のガイドをしている男の物語。
面白いけどディテール不足だろう。by K. Hattori

 アジア最大の歓楽街・新宿歌舞伎町で観光客相手のガイドをしている李小牧の著書「歌舞伎町案内人」を、自身も13年前に来日して映画を学んでいたという張加貝監督が映画化。主演はチューヤン。共演に山本太郎、坂井真紀、ガッツ石松など。

 主人公は中国からの留学生・李暁強。歌舞伎町の喧噪に魅了された彼は、街を訪れた中国人観光客を目的の店まで案内するガイド業を始める。このビジネスはやがて軌道に乗り、数年後には何人かの人を雇うまでに急成長。だがその頃から、同じ歌舞伎町内でキャッチをしている韓国人グループとの対立が始まる。それは互いの“ケツ持ち”をしているヤクザ同士の抗争に発展していく。李は敵対グループを支援するヤクザの中に、かつての親友・劉鋼の姿を見て愕然とするのだった。

 物語の背景に、天安門事件、香港返還、たまごっちブームなどを織り込み、このドラマを特定の時と場所の中に定着させようとしている。同じ話をまるっきり現代に翻案してしまうことも可能だったし、その方が映画作りとしてはずっと簡単なものになっただろう。でもあえてそうしなかったのは、この映画には「日本の経済状況や政策に翻弄される中国人留学生」というサブテーマがあるからだ。日本で一旗揚げようとやってきた青年が、状況の中でどう自分の運命を切り開いていくのか、あるいは自滅していくのか。映画は成功する者と自滅していく者のコントラストを、李暁強と劉鋼というふたりの中国人の対比で見せていく。

 丁寧に真面目に作った映画という印象は受けるのだが、その真面目さが面白さには結びついていないと思う。この映画はストーリーを追うことに熱心で、観客が知りたいディテールが疎かになっているのではないだろうか。僕は歌舞伎町案内人という「仕事」について、もっと詳細を知りたいと思う。店からのマージンは具体的に幾らぐらいなのか。一晩の売上は幾らぐらいで、月にどのぐらいの収入が得られて、最終的にはそれをどう精算しているのか。こうしたお金の話が疎かになっているため、その後のヤクザのケツ持ちの話や、対立組織との縄張り争いといった話に、生々しい迫力があまり感じられないのだ。お金の話にもっと細かく突っ込んでいくだけで、映画はずっと厚みが増したと思う。

 映画を観ていて不思議だったのは、ガイドたちが通行人の中から一目で中国人や韓国人を見分けることだ。中国人だって北京や台湾と香港とでは言葉が違うのに、相手をいちべつしただけでぱっと出身がわかってしまうのはなぜだろう。主人公は「ガイド」という立場にこだわっているが、「ガイド」と「キャッチ」の違いはどこにあるのか。こうした細部をもっと描いてほしいのだ。

 『歌舞伎町案内人』というタイトルから観客が観たいと感じるのは、中国人留学生たちの青春ストーリーではないと思うぞ。その「仕事」そのものを、もっと語ってほしかった。

8月下旬公開予定 テアトル新宿(レイト)
配給:キネマスターフィルム 宣伝:オムロ
2004年|1時間50分|日本|カラー|ヴィスタサイズ
関連ホームページ:http://www.root-pictures.com/kabuki/
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