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2004/07/20 丸の内プラゼール
チャン・イーモウ監督による武侠活劇巨編の第2弾。
絵作りに厚みがあって見応えがある。by K. Hattori

 『HERO』で武侠活劇を芸術品の域に高めたチャン・イーモウ監督が、前作とほぼ同じスタッフで作ったアクション大作。主演は金城武、アンディ・ラウ、チャン・ツィイー。『HERO』は国家の「大義」に殉じていく男や女の物語だったが、今回の映画は「大義」よりも自分の「愛」を貫き通そうとする男女の物語になっている。

 9世紀中頃の中国。朝廷に反逆する飛刀門一派を殲滅するよう命じられた官吏リウ(劉)と、親友にして腹心の部下ジン(金)は、遊郭に身を隠す前首領の娘・シャオメイ(小妹)を捕らえることに成功する。この盲目の娘をおとりにして飛刀門の新首領をおびき寄せようと、リウはジンに命じてシャオメイを牢から脱出させた。「情報を探り出すのが目的だ。決して娘に本気になるな」と固く戒められていたジンだったが、遊び人スイフォン(随風)の異名を持つ彼の心も、小さな身体で自分自身の運命と闘っているシャオメイにいつしか惹かれていくのだった……。

 アクション映画としては冗長に感じるシーンが多いのだが、これは監督があえて平板な画面を作ろうとしているせいだと思う。特に映画の導入部で登場する遊郭のシーンは、画面全体にくまなく光が回り込み、色味豊かな水彩画のような映像になっている。がらんと開いた空間に、人物や小道具が次々に現れては退場していく様子を観ていると、これは舞台劇の演出なのだなと思う。シャオメイが舞を踊るシーンを省略なしに1曲丸々踊らせてしまったりするのも、そうした舞台風演出のひとつだろう。「トゥーランドット」の舞台演出で、「舞台全体に光を」と主張していたイーモウ監督ならではの美意識だ。

 映画の冒頭からラストまで、アクションシーンがふんだんに盛り込まれている。ワイヤーやCGを利用したことが見え見えの演出だが、それでも手に汗握ってワクワクするシーンに仕上がっているのは、こうした特殊効果の数々が、映画自体の持つ「作り事」の雰囲気とうまくマッチしているからだと思う。アクションシーンはどれもが映画の目玉となる見せ場なのだが、個人的には金城武扮するジンが弓を4連射するシーンにニヤリとし、竹林での立体的な活劇にドキドキさせられた。1対1の戦いで始まり、1対1の戦いで終わる構成だが、その間にサンドイッチされた戦いのバリエーションと美しさに目を奪われた。

 ラブストーリーとしてはあと一押し欲しかった気もするが、様式化された画面構成の中で、運命や宿命にからみとられ押しつぶされていく男女の恋模様を丁寧に描いていると思う。こうしたお芝居については、アクションのように一目ですべてがわかるというものでもなかろう。ストーリーを把握した上で繰り返し観た方が、登場人物たちの心の動きが手に取るように見えて味わい深く感じられるのだと思う。何にせよすごい映画。好き嫌いはあるにせよ、観ただけの満足感は必ず味わえると思う。

(原題:十面埋伏 Lovers)

8月28日公開予定 丸の内ルーブル他・全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース 宣伝:レオ・エンタープライズ
2004年|2時間|中国|カラー|スコープサイズ|SR、SRD
関連ホームページ:http://www.warnerbros.co.jp/lovers/
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