日野日出志のザ・ホラー

怪奇劇場 第一夜

2004/07/21 GAGA試写室(赤)
多くの子供にトラウマを与えたカルト漫画家・日野日出志の世界。
今回は「地獄小僧」と「わたしの赤ちゃん」の感想。by K. Hattori

 怪奇漫画家・日野日出志の作品を、3人の監督が三者三様に映画化したホラー・オムニバス映画。今回の試写では全3話のうち、「地獄小僧」と「わたしの赤ちゃん」を観ることができた。劇場ではさらにもう1本「怪奇!死人少女」が加わる。すべてビデオ撮りで1話48分。監督は安里麻里、中村義洋、白石晃士。「地獄小僧」と「わたしの赤ちゃん」を観る限り、ホラー映画としての「恐さ」は今ひとつだと思ったが、日野日出志の漫画という強烈な素材を3本の作品がどう料理しているのかを観るのは楽しみ。ただしこうした楽しみ方が、日野日出志を知らない世代に受け入れられるかどうかは謎なのだが……。

 今回観た「地獄小僧」と「わたしの赤ちゃん」は、原作へのアプローチ方法がそれぞれまったく異なっているのが面白いと思った。「地獄小僧」は原作のビジュアルや世界観を、特殊メイクや合成などを使って忠実に“再現”しようとしている。これに対して「わたしの赤ちゃん」は、原作のストーリーを現代に“翻案”しようとしている。どちらがいいとか悪いとか言う問題ではなく、日野日出志の作品についてはこうした解釈の幅を許すだけの余地があるということだろう。

 日野日出志作品の特徴がその特異な絵にあることは間違いなく、その点では「地獄小僧」が目指す方向性は十分にありだと思う。交通事故で一人息子を亡くした母親が、呪術を使って息子を復活させるが、その息子はもはやかつての面影を失い、人間を襲っては内臓を食らうモンスターになっていた、というお話。この話の荒唐無稽さは「死んだ息子が蘇る」ということではなく、登場する人間関係の特殊性にある。家の中にはヒロインの忠実なしもべとなる「じい」がいる。息子の墓は土饅頭。墓に現れる奇妙な老婆。住んでいる家はお城のような豪邸。こうした描写は、平成16年の現在、まるで異世界のものとしか思われない。しかしその異世界を、堂々と前面に押し出してくる面白さ。不気味で恐ろしい中に、つい「ププッ」と吹き出してしまいそうになるのだ。

 これに対して「わたしの赤ちゃん」は、かなり凝った構成になっている。妊娠中の妻を抱える売れない脚本家が、プロデューサーからホラー作品の依頼を受ける。苦労の末に考えたのが、妊婦がトカゲのような赤ん坊を産むという作品。ところがいよいよ撮影が始まるという頃に生まれた脚本家の子供は、映画と同じようなトカゲと人間の混ぜ合わせだった。撮影現場ではトカゲの赤ん坊を巡る修羅場が繰り広げられ、家に帰っても同じような修羅場。脚本家の精神は少しずつおかしくなっていく……。

 ひとつの物語の中に別の話が入り込んでいく入れ子構造のドラマで、この話の中で日野日出志の原作はいわば「劇中劇」として扱われている。なるほどこういう方法もアリかもしれない。これが面白いかどうかは別として、スマートなやり方だと思う。

10月2日公開予定 テアトル池袋(レイト)
配給:パル企画
2004年|各48分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.pal-ep.com/hinohideshi/hinohideshi-top.htm
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