ピエロの赤い鼻

2004/07/22 メディアボックス試写室
息子が嫌がるピエロの出し物を続ける小学校教師の真意とは……。
『クリクリのいた夏』のスタッフ・キャストが再結集。by K. Hattori

 1960年代のフランスの田舎町。日曜日ごとにピエロの扮装で出し物を披露し、町の人々を喜ばせている小学校教師ジャックだったが、その息子リュシアンは道化者の父親が嫌でたまらない。町の人々に父親が笑われているのが、彼にとっては屈辱以外の何ものでもないのだ。そんなリュシアンに対し、ジャックの親友アンドレは昔話を始める。それは第二次大戦末期、まだ若かったジャックとアンドレがしでかした大冒険の物語だった……。

 監督は『クリクリのいた夏』のジャン・ベッケル。主人公ジャックを演じるのは、『奇人たちの晩餐会』や『クリクリのいた夏』に出演していたジャック・ヴィユレ。親友アンドレ役には『恋するシャンソン』や『クリクリのいた夏』のアンドレ・デュソリエ。女たらしの保険屋ティエリーを演じるのは、『奇人たちの晩餐会』『ル・ディヴォース/パリに恋して』のティエリー・レルミット。ジャックのかつての教え子エミールを演じるのがブノワ・マジメル。これはかなり豪華な顔ぶれだ。

 物語の構成は大きな回想形式になっている。1960年代のある日曜日を「現在」として、そこから第二次大戦末期の「過去」に起きた出来事を語るという構成。この「過去」への旅を通して、ジャックのおどけた姿は大きくその意味を変える。バカなことをして周囲に笑われっぱなしの父親は、息子が誇りとする偉大な父へと姿を変える。これはジャックの息子だけの問題ではなく、映画を観ている人たち全員の中で起きる意識の変化だ。

 この映画で描かれているのは、戦争という理不尽な暴力の中で、名も知れぬ無名の庶民が示したささやかな勇気の気高さだ。彼女の気を引こうと、列車のポイント切り替え所を爆破しようとしたジャックとアンドレの冒険など、その「勇気」の前ではじつにちっぽけなものに過ぎない。本当に偉大なのは暴力の前に自らの命を投げ出し、ささやかな抵抗を示した人々だろう。同胞を救うために重大な決断をしたフェリクス老人。そして、捕らえられた主人公たちに食料を差し入れるドイツ兵。このドイツ兵が、ジャックのその後の人生に大きな影響を与えることになる。

 これらの名もない英雄たちは、戦争が終わった後も誰に知られることなく歴史の中に埋もれて行ってしまう。栄誉なき英雄。墓標なき勇者。ジャックのおどけた姿は、そうした名もなき英雄たちの遺志を継ぐ行為でもあるのだ。

 ぜんぜん期待していなかったのだが、面白い映画だった。しかし50歳をとうに過ぎたジャック・ヴィユレやアンドレ・デュソリエが、戦争中の青年時代まで演じるのは無理がある。全体のボリュームとしては戦争中の話の方が多いのだから、もっと若い俳優がこれらの役を演じた方がいいのではないだろうか。俳優の演技力や存在感でも、この「年齢」だけはごまかしようがない。舞台劇ならこれで構わないのだろうけど、映画ではねぇ……。

(原題:Effroyables Jardins)

今秋公開予定 シネスイッチ銀座、関内MGA
配給:ワイズポリシー
2003年|1時間35分|フランス|カラー|シネマスコープ|DTS
関連ホームページ:http://www.wisepolicy.com/
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