イエスタデイ

沈黙の刻印

2004/07/29 TCC試写室
SF風のスパイスをまぶした近未来刑事アクションドラマ。
ストーリーより雰囲気重視の映画だ。by K. Hattori

 近未来の韓国を舞台にしたミステリー・タッチのアクション映画。なぜ舞台が近未来かというと、そこにちょっぴりSFの要素が入っているからだ。遺伝子操作。クローン人間……。監督のチョン・ユンスはこれがデビュー作。主演は『秘密の涙』のキム・スンウと、『シュリ』のキム・ユンジン。他にもチェ・ミンスやキム・ソナが出演。2時間近い上映時間はほとんどがアクションで埋められている。話は回りくどくてわかりにくいが、絵作りのセンスはなかなかのものだと思う。

 西暦2020年。凶悪事件を捜査する特殊捜査隊SIの体調ユン・ソクは、誘拐事件の人質となった息子を強行突入のさい亡くしてしまう。犯人たちはまんまと逃走。事件のキーマンとなる神父も姿を消した。それから1年後。警察庁長官が謎の武装集団に誘拐され、その養女である犯罪分析官ノ・ヒス博士がSIの捜査に協力することとなった。やがて届けられたのは、30年前に葬られた政府の秘密ファイル「ルカ」。30年前の幼児誘拐事件と、長官誘拐の関係は? そして一連の事件は、ユン・ソクの息子が誘拐された事件とどう関わっているのか?

 話のアイデアはともかく、語り口が込み入りすぎていてわかりにくい。ストーリーを語ることより、まずは絵作りや雰囲気作りを優先している印象を受けた。アクションシーンはかなり派手。個々のシーンも小道具やライティングに凝って、厚みのある画面を作り出している。しかしそのわりには、主役クラスの俳優が貧弱に感じられる。キム・スンウは悪い役者ではないのかもしれないが、この映画の中ではミスキャストではなかろうか。キム・ユンジンはスターかもしれないが庶民派の風貌で、ここは目の覚めるような美女を配置してほしかった。

 クローン人間や遺伝子操作というテクノロジーが登場するにせよ、物語をわざわざ2020年にする必要性はあまり感じない。携帯型の小型ITシステムなど、ハイテク装備で未来感を演出するのも古くさい。ファッションなどは現代とあまり変わらないようだし、これはいっそのこと現代の話にもできるのではないだろうか。そもそも2020年からさかのぼること30年と言えば、1990年代のことだものなぁ……。これはもう現代の話じゃないの。

 物語が2020年から始まり、1年後になって、さらに30年後に戻るという入り組んだ構成。さらに戦闘シーンになると、誰が誰とどこでどう撃ち合っているのかさっぱりわからないという欠点がある。迫力はあるのだが、これではアクションに気分が乗れないのだ。最後の種明かしもあまりきれいに決まらないし、これは脚本の作りにそもそも何か弱点があるのではないだろうか。状況をことごとく台詞で説明するのもわずらわしい。同じようなアイデアからでも、もっとシンプルでわかりやすく、スピーディーな映画は作れると思うけど。香港映画なら同じ話も1時間半だよ。

(英題:Yesterday)

9月4日公開予定 銀座シネパトス
配給:ギャガ・コミュニケーションズ アジアグループ 宣伝:フリーマン
2002年|1時間59分|韓国|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/
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