完全なる飼育

赤い殺意

2004/08/03 TCC試写室
『完全なる飼育』シリーズの第6弾は若松孝二監督作品。
モデルになったのは新潟の少女監禁事件。by K. Hattori

 松田美智子の「女子高校生誘拐飼育事件」を原作とした、『完全なる飼育』シリーズの第6弾。(ただし小林政広監督の『完全なる飼育/女理髪師の恋』はストレートビデオなので、劇場公開作としては第5弾。)毎回趣向を変えて楽しませてくれるエロチック・ドラマだが、今回は監督にピンク映画出身の巨匠・若松孝二を迎えて、雪に包まれた小さな家の中での密室劇を描いている。「男が少女を誘拐して監禁する」というシリーズのコンセプトは同じだが、今回の作品がモデルにしているのは新潟で小学生の少女が誘拐され、9年以上も監禁されていたという事件だ。本作のロケも、すべて新潟の六日町で行われている。

 三流ホストの関本はギャンブルで作った多額の借金で首が回らなくなり、出会い系サイトで知り合った中年の女に誘われるまま、資産家である彼女の夫を殺害してしまう。警察に追われて逃げ込んだのは、雪の中に孤立する一軒家。そこにはほとんど口をきかないひとりの少女がいた。間もなくその家の主人が帰ってくると、少女は関本を家の二階にある物置に隠す。すると帰宅した主人は少女を裸にして、儀式めいた異様な行為を始める。じつは少女はこの男に何年も前に誘拐され、家の中に閉じこめられていたのだ。男の言葉による恫喝や脅迫、さらに鎖につないで放置する折檻や、スタンガンを使った拷問により、少女は男の言葉にまったく逆らえなくなっていたのだ。関本はこの様子を見て驚き、彼女を何とかして家から救い出そうとするのだが……。

 飼育される少女に伊東美華。逃げる男に大沢樹生。監禁する男に佐野史郎。試写の前に主演の伊東美華が挨拶をしたのだが、この映画は彼女にとっての「三重苦」があり、それは「すっぴん」「剃毛」「前貼ナシ」だったとか。ご苦労様でした。佐野史郎は「ずっとあなたが好きだった」以来、この手の異常な役を演じるとはまる。一種のタイプキャスティング。行動の動機などは別として、この人が異常者を演じるだけで「そうだろう」「そうだよな」と観客を納得させてしまうのだから偉い。

 監禁されて精神的にも完全な従属状態になっていた少女が、監禁する男の知らない間に「女」になっていくというのは面白いアイデア。この「少女から女へ」という脱皮を手助けするのが強盗殺人犯の関本というわけだが、映画ではこの関本がらみのエピソードがいささか弱い。佐野史郎の存在だけで観客を黙らせてしまう監禁犯のキャラクターや、怯えきった暗い表情と過去のフラッシュバックで説明される少女のキャラクターに比べて、関本の人物像だけが説明口調になっている。これはもっと説明を省いて、男女3人の密室での心理だけを追い込んでいった方がよかったのではないだろうか。関本が少女を抱くに至った経緯を省略したことで、少女の処女喪失がいささか唐突にも感じられる。もう少し、エピソードに厚みがほしいのだなぁ。

9月18日公開予定 新宿武蔵野館
配給:アートポート
2004年|1時間39分|日本|カラー|ビスタサイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.emovie.ne.jp/shiiku6/index.html
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