トリコロールに燃えて

2004/10/08 GAGA試写室
シャーリーズ・セロン主演の文芸風メロドラマ。
よくわからない邦題だ……。by K. Hattori

 『モンスター』でアカデミー主演女優賞を受賞したシャーリーズ・セロンが、第二次大戦前夜と大戦下のパリで活躍する美貌の女流写真家を演じた波瀾万丈のラブストーリー。共演は『コール』でもセロンと共演して以来、私生活でも彼女のパートナーになっているスチュアート・タウンゼントと、3年に渡るトム・クルーズとの交際に今年1月ピリオドを打ったばかりのペネロペ・クルス。監督・脚本は『妻の恋人、夫の愛人』『キャメロット・ガーデンの少女』のジョン・ダイガン。スケールの大きなメロドラマなので何か原作があるのかと思ったら、特にそうしたものはないオリジナル脚本のようだ。

 1930年代初頭。アイルランド系の貧しい学生ガイ・マリオンは、英国の大学でギルダ・ベッセという美しく裕福な女子学生と知り合い彼女に恋をする。だが奔放な彼女はガイに忘れ得ぬ思い出だけを残して英国を去っていった。それから数年後。ガイはパリで女流カメラマンになったギルダと久しぶりに再会し、ふたりの関係は再び燃え上がる。ギルダは政情不安定なスペインから逃れてきたミアというモデルと同居していたが、そこに転がり込むようにしてガイも同じアパートで暮らし始める……。

 ガイとギルダが初めて出会い、物語の実質的なスタートを切るのは1933年。そして波瀾万丈の物語が終わり、ガイとギルダの間に永遠の別れが来るのは、パリがナチスドイツの手から解放される1944年。じつは1933年という年は、ドイツでヒトラーが首相に就任した年なのだ。つまりこの映画が取り上げているのは、「ヒトラー時代のヨーロッパ」に他ならない。ガイは理想のために自ら望んで戦いの場に赴き、ミアは愛国心や家族のために祖国に戻る。享楽的な生き方が信条のギルダはそんなふたりと離れることになるが、戦いを忌避し続ける彼女もまた、否応なしに戦争に巻き込まれていく。戦争は主義主張や立場の違いなどお構いなしに、誰彼構わず呑み込んでいくバケモノだ。

 セットや美術やロケーションに凝って、第二次大戦前後のヨーロッパの街並みや風俗を再現した力作。メロドラマとしてはまずまずの筋立てだし、映画として時折はっと驚かされるようなシーンもいくつかある。例えばパリに残っていたギルダが、スペインから戻ってきたガイと再会した瞬間に見せる驚愕と恐怖の表情を通して、ガイの中からあふれ出る再会の喜びが急転直下絶望へと変化する劇的な場面。ここは台詞がただのひとつもないのに、映画を観る人に主人公たちの気持ちが伝わってくる名場面だ。

 こうした個々のシーンに光るものはあるものの、映画は全体としてはコクのない薄っぺらな印象の作品に納まっている。これはおそらく登場するキャラクターが、どれもきれい事すぎるからではないだろうか。主人公たちの三角関係をもっとコッテリ描くと、時代背景に負けない人間ドラマの厚みが出たと思うけど……。

(原題:Head in the Clouds)

10月30日公開予定 みゆき座他・全国東宝洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
2004年|2時間1分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/tricolore/
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