感染

J-HORROR THEATER

2004/10/19 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ2)
古い病院を舞台にした秀作サスペンス・ホラー。面白い。
東宝のJ-ホラーシアター第1弾作品。by K. Hattori

 落合正幸監督の『感染』は、ジャパニーズ・ホラーと呼ばれるブームのキーパーソンである、中田秀夫、黒沢清、清水崇、落合正幸、鶴田法男、高橋洋の6監督が、それぞれ新作ホラー映画を発表する「J-HORROR THEATER(Jホラーシアター)」の第1弾。同時上映は鶴田法男監督の『予言』だ。

 慢性的な人手不足と超過勤務で、医師や看護師たちがヘトヘトになっている総合病院。そこである夜、起きるべくして医療ミス事故が起きるる。現場にいた秋葉医師や魚住医師らは口裏を合わせて事故を隠蔽しようとするが、そんな時に限って、救急隊が未知の感染症を病んだ患者を運び入れてくる。全身がドロドロに溶けていく不気味な症例にたじろぐ秋葉たち。だが新型ウィルスの第一発見者として名を売りたい赤井医師は、同僚たちの医療ミス隠蔽につけ込んで、この患者を病院内で独自に調べようと言い始めたのだが……。

 原案は『踊る大捜査線』シリーズの君塚良一。タイトルが『感染』というくらいだから、この未知のウィルスが病院内に広がっていくという展開は最初から予想できることだ。しかしそもそも病原体の脅威を描くのは医療サスペンスであって、そこからホラーにまで結びつけるには何らかの工夫やテクニックが必要になってくる。この映画はそこを、じつにうまくクリアしているように思う。これは細かなエピソードの組み立てと、雰囲気作りがものすごく上手いのだ。

 映画の序盤から、舞台となる病院に漂う不穏な空気。そこに超自然的なものは感じられないが、常識では考えられないような異常事態が起きているということだけはしっかり伝わってくる。病院の財政難で備品が足りなくなるという非常事態。昼夜ぶっ通しで働き続ける医師や看護師たちの、底なしの疲労と倦怠感。先輩医師による後輩イジメ。先輩看護師による新人いびり。病院内を徘徊する痴呆の老婆。そして病院の夜は更けていく。出口なしの絶望的な状況の中で起きる、常識では考えられないような医療ミス。そしてグロテスクな隠蔽工作……。言語道断とも言えるこうした現実の上に、“全身が溶けていく謎の患者”という超自然現象がドッキングしていく。

 映画のオチそのものに目新しさはなく、二重のドンデン返しも取って付けたようで不自然にすら感じた。だがこうしたオチの陳腐さに、観客の気持ちを日常の側にソフトランディングさせようとする作り手の意図のようなものを感じる。なんだかんだ言って、ホラー映画は恐すぎてはいけないのだ。最後の最後に「なんだ、こんなことか」と観客に小馬鹿にされるくらいでちょうどいいのかもしれない。

 正直に言うと僕は今さら映画の中で、「本当の恐怖」なんてものを味わいたくないのだ。本当の恐怖なら日常のニュースの中にあふれている。僕がホラー映画に求めるのは、結局のところ日常を離れた「ファンタジー」なのかもしれない。

10月2日公開 日劇2他・全国東宝系
配給:東宝
2004年|1時間38分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.j-horror.com/
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