エヴァンジェリスタ

2004/10/22 映画美学校第2試写室
『ローズマリーの赤ちゃん』と『ブラジルから来た少年』がドッキング。
中途半端なオカルト・ホラー映画だ。by K. Hattori

 子供を作ろうと不妊治療クリニックを訪ねた若い夫婦が、悪魔の遺伝子を植え付けられてしまうという現代版『ローズマリーの赤ちゃん』。ホラー映画というのはいつでも「現代社会の恐怖」をテーマにしている。『ローズマリーの赤ちゃん』のテーマは、親類縁者も親しい友人もなく夫も非協力的な中で、初めての出産を強いられる妻の不安と不満だった。今回の映画でテーマになっているのは、不妊治療、遺伝子操作、クローン技術などの最新生殖医療技術が、知らず知らずのうちに患者を実験台とする恐怖だろうか……。

 はっきり言って、この映画は出来損ないだと思う。これは製作者たちが最初から力不足だったのかもしれないし、撮影途中に主要登場人物のひとりを演じた俳優(デヴィッド・ヘミングス)が急死したことから、映画が修復不能なダメージを受けたということかもしれない。とにかくこの映画は本来つながるはずのエピソードがつながらず、あらゆる要素が中途半端なまま放り出されてしまった印象なのだ。こうした事態を招いたことについて、あれこれ詮索して同情したり糾弾したりすることは可能だろう。しかし観客としては、映画を完成品で観てその内容を判断するより仕方がない。

 アメリカの子作り事情というのがよくわからないのだが、「会社を辞めて時間があるからそろそろ子供を作ろう」と言う主人公たちが、いきなり不妊治療のクリニックを訪ねるというのがよくわからない。これはそれまでに十分不妊に悩んでいた夫婦が、時間のある時に本格的な不妊治療をスタートさせようという意味なのだろうか。僕自身不妊症やその治療について詳しいわけではないけれど、映画『いつまでも二人で』や『エンジェル・スノー』に登場する不妊夫婦に比べて、『エヴァンジェリスタ』の夫婦にはまるで緊迫感がない。「こっちの都合もあるので体外受精は1度で成功させてください」なんて、そんな都合のいい話があり得るものなんだろうか……。

 映画導入部に登場する投身自殺する妊婦が何者なのかよくわからないし、クリニックの医師たちがどんな基準で悪魔の遺伝子を使うのかもわからない。主人公たちの借りていた家の隣人が行方不明になってしまうのも、なぜだったのか最後まで説明なしだ。まさかクリニックは訪れる患者全員に悪魔の遺伝子を注入しているのか? 悪魔はこの世にうじゃうじゃ誕生するのか? だとしたらこれは、『ローズマリーの赤ちゃん』というより『ブラジルから来た少年』だな……。(どっちも原作はアイラ・レヴィンだけど。)

 頭のいかれたカトリックの神父が、「福音派(英語ではEvangelical)は悪魔崇拝だ」と言うところから『エヴァンジェリスタ』という邦題なのだろうが、これもよくわからないタイトルだった。もっとも『Blessed(神聖な)』というタイトルもよくわからないのだけれど……。アイデアは面白そうなのになあ。

(原題:Blessed)

11月公開予定 銀座シネパトス
配給:ハピネット・ピクチャーズ、メディアボックス
2004年|1時間35分|ルーマニア、イギリス|カラー|ビスタ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.cine-tre.com/
ホームページ
ホームページへ