風のファイター

2004/10/28 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ5
極真空手の創始者・大山倍達を韓国の側から描く実録映画。
アクションシーンはリアリティがある。by K. Hattori

 極真空手の創始者・大山倍達の青年時代を描いた韓国版「空手バカ一代」。ただしこの映画は、大山倍達を韓国人・崔倍達(チェ・ペダル)として描いているのが特徴。山籠もりで片眉を剃る、牛と戦う、誤って人を殺してしまうなど、「空手バカ一代」に描かれていた有名なエピソードも形を変えて登場するが、むしろ「空手バカ一代」ではあえて伏せられていた様々な事柄に焦点が当てられているのがユニークだ。もっとも「空手バカ一代」が現実をもとにした壮大なフィクションであることは誰もが承知していることだが、『風のファイター』の方が実像に近いかというとさにあらず。こちらは崔倍達をあまりにも民族主義的な人物として描きすぎており、これはこれで壮大なフィクションになってしまっていると思う。

 日本統治下の韓国で少年飛行兵に憧れて日本に渡った崔倍達は、軍隊内部にまかり通る朝鮮人差別に憤りを感じつつ終戦を迎えた。焼け跡の闇市で日本人やくざにからまれた彼は、日本刀を突きつけられて恐怖のあまり失禁するという屈辱を味わう。そんな倍達を助けたのは、かつて自分に武術を教えてくれた男だった。倍達は彼に弟子入りし、朝鮮民族伝統の武術テッキョンの修行に励む。仲間や日本人の恋人の支えと励ましの中で実力を蓄えた倍達は、全国の空手道場に殴り込む武者修行の旅に出る。強豪を次々と倒していく倍達に恐れをなした日本空手界は、いかなる手を使っても倍達をつぶそうとするのだが……。

 日本の植民地支配下で辛酸をなめてきた韓国人の青年が、朝鮮武術テッキョンで日本の空手界を打倒する物語だ。これは韓国人が観れば痛快かもしれないが、日本人が観るとあまりにもその構造が見え透いていて嘘っぽい。戦後の闇市で在日韓国朝鮮人たちが日本の警察権の届かない「三国人」として勢力を伸ばし、やくざ組織の中にも多くの在日がいたという事実も、当然この映画の中では無視されている。しかし「事実と違う」という理由だけで、この映画を拒否してしまうのも少々大人げなかろう。「空手バカ一代」だって相当事実と違うのだ。おそらく大山倍達本人の実像は「空手バカ一代」と『風のファイター』の中間にあるか、あるいは両者の間を行きつ戻りつしていたのではなかろうか。

 正直ドラマ部分は噴飯ものなのだが、アクションシーンは一見の価値がある。特に主人公が全国武者修行で道場破りをする場面は圧巻だ。攻撃と防御の応酬が続く演出された格闘技ではなく、まさに一撃必殺の空手技が冴え渡る。打撃を食らって一度倒れた相手が闘争本能のおもむくままに一度跳ね起き、その後ぐらりと傾いて倒れるシーンなどはリアルだ。映画には日韓の(韓日のと言うべきか)本物の空手家が多数協力。主人公を潰そうと躍起になる日本空手家役で真樹道場の真樹日佐夫が顔を見せているが、彼は『すてごろ/梶原三兄弟激動昭和史』で大山倍達を演じているぞ。

(英題:Fighter in the Wind)

第17回東京国際映画祭コンペティション正式出品作品
2005年公開予定
配給:エスピーオー
2004年|2時間3分|韓国|カラー
関連ホームページ:http://www.cinemart.co.jp/
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