誰にでも秘密がある

2004/11/10 映画美学校第1試写室
この邦題がいい。確かに誰にでも秘密はある。僕にもあるぞ。
こんなに楽しそうな秘密じゃないけど。by K. Hattori

 韓流ブームの中で人気沸騰中のイ・ビョンホンとチェ・ジウが共演する、ちょっとエッチで過激なラブコメディ。三人姉妹の末っ子が家に連れてきた新しい恋人に、姉ふたりまでが夢中になってしまうというお話だ。イ・ビョンホンは3人の女に愛される若い画商スヒョンを演じ、チェ・ジウは学究一筋のおかたい次女ソニョンを演じている。恋多き三女ミヨン役のキム・ヒョジンは劇中でジャズボーカルも披露。人妻なのになぜか妹の恋人に心が揺れ動く長女ジニョンをチュ・サンミが演じる。原作はイギリス映画『About Adam』。日本未公開なのでどんな作品なのかは不明。

 物語は三姉妹それぞれの一人称視点で語られる3つのエピソードに、最終的な種明かしとなるひとつのエピローグを加えた構成。最初に三女の物語が一通り終わると、次に次女の視点から同じ話をなぞり、最後は長女が同じ筋書きを語り直す。まったく同じ事柄を語っているにもかかわらず、三人の目から見たスヒョンという男の印象がそれぞれバラバラになっていくのが面白い。黒澤明の『羅生門』やジョージ・キューカーの『魅惑の巴里』、エドワード・ズウィックの『戦火の勇気』などと同傾向のスタイルだ。

 しかしここでは語られている「事実」そのものに、何の違いも生じていないのが一般的な『羅生門』タイプの映画との違いだ。客観的な「事実」はひとつ。それ自体は証言者が変わっても、まったく微動だにしない。だが視点が異なれば、見えてくる視界も異なってくるのが世の常。ある人物に物事や人物の表が見えているが裏は見えず、別の人物には裏だけが見えて表は見えない。人間が見て知っているのは、いつだって物事全体の一部分でしかないから起きることだ。こうして三者三様の各エピソードが生まれ、それぞれの印象がまるで違ってきてしまう。3通りの事実を知っている観客は、どうなることかとハラハラドキドキしっぱなし。

 日本では「冬ソナ」人気もあって広告宣伝でもチェ・ジウの名前を大きくレイアウトしているが、映画を観ればわかるとおり彼女は三姉妹の中のひとり。全体の3分の1を担当しているだけだ。恋多き三女を演じたキム・ヒョジンも、姉妹の中でもっとも常識人に見えた子持ち人妻の長女役チュ・サンミも、それぞれに魅力的な女性キャラクターを演じていて見応えがある。映画の登場人物としてはむしろこのふたりの方が、バランスが取れていて魅力的だ。最後のオチに至る筋立ても、このふたりの方が納得できる流れだ。チェ・ジウのパートは、なんであんなところに落ち着くのかよくわからない。

 俗に親子どんぶりとか姉妹どんぶりという言い方があるが、この映画のイ・ビョンホンは三姉妹三色どんぶりをひとりでペロリと平らげる図太さ。これで嫌らしくならないのは彼の持ち味だろうし、からりと乾いて明るい演出タッチも相まってのこと。それにしてもうらやましい境遇だ。

(英題:Everybody has secrets)

11月27日公開予定 みゆき座他・全国東宝洋画系
配給:東芝エンタテインメント
2004年|1時間41分|韓国|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.himitsugaaru.com/
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