クリス・ヴァン・オールズバーグの世界的なベストセラー絵本「急行『北極号』」(日本では村上春樹の翻訳で出版されている)を、ロバート・ゼメキス監督が映画化したもの。全編デジタル技術を使って、原作絵本の温かくて優しい絵をそのまま再現しようとしている。ただしこれはCGアニメではない。モーションキャプチャー技術を使って、生身の俳優の演技を画面に取り込んだものだ。僕はそこに多少の違和感を感じる。人物も背景も抽象化された「動く油絵」になっているはずなのに、その動きだけがリアリなことにちぐはぐな印象を受けるのだ。
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『スター・ウォーズ』シリーズのように、実写と遜色のないリアルな映像表現を目指すのならば、モーションキャプチャーも方法論として悪くはないだろう。しかしこの『ポーラー・エクスプレス』においては、モーションキャプチャーがアニメーションの代用手段となっているのではないだろうか。モノの動きをそのままダイレクトに取り込んで画像として“再現”することと、モノの動きを記憶の中で再構成して新たに“表現”することの間には天と地の開きがある。ものすごく乱暴な言い方をしてしまえば、これは写真と絵画の違いだ。写真技術による現物の“再現”と、絵画による実物の“再現”が無理矢理同居しているチグハグさは、映画を観ている最後の最後まで気になる点として残った。
さてそうした技術的な点を除けば、僕はこの映画に大いに満足している。表紙や扉を含めても全部で30数ページしかない絵本を1時間半以上の長編映画にするにあたり、映画独自のエピソードが数多く盛り込まれている。しかしそうした脚色のベースは、すべて原作絵本の中に登場しているのだ。映画では汽車がローラーコースターのように急坂を滑り降りるシーンがあるが、原作絵本にも「ローラーコースターみたいな猛スピードで谷間を抜けた」という表現がある。映画独自のキャラクターに見えるメガネの知ったかぶりっ子も、原作絵本の中でちゃんと映画と同じ座席に座っているではないか! 屋根の上のホーボーや、一緒に旅をする子供たちのキャラクターも、原作の雰囲気を壊してはいないと思う。
サンタクロースを信じられなくなり始めた少年が、一晩の冒険を通してサンタを信じるようになるという話は映画独自のもの。だがそれによって「夢を持ち続けることの大切さ」という原作のテーマは、より強調されることになっている。サンタを信じている子供は、この映画を観て大喜びすることだろう。だがかつてサンタを信じていたのに、今ではサンタを信じられなくなった大人こそが、この映画の本当のターゲットなのだろう。子供連れでこの映画を観に行く大人は映画の最後に、いまだサンタを信じ続けている子供をうらやましく思うと同時に、大人になることの寂しさをちょっぴり感じることだろう。
(原題:The Polar Express)
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