冬の幽霊たち

ウィンターゴースト

2004/11/25 渋谷シネ・ラ・セット
WAHAHA本舗が自主製作した幽霊がテーマのファンタジー映画。
全身灰色の幽霊はなんとも寂しそうだ。by K. Hattori

 マチャミこと久本雅美や柴田理恵ら、個性的な俳優が所属していることで知られる劇団・WAHAHA本舗が、その総力を結集して製作したファンタジー映画。製作総指揮は劇団の主宰者でもある喰始(たべはじめ)。監督は稲葉耕作。ロケ地の夕張に乗り込んだWAHAHA本舗のメンバーとスタッフ・キャストは、カメラの前に立つより雪かきをしている時間の方が圧倒的に長いという過酷な重労働の末に、この映画を完成させたという。

 『幸福の黄色いハンカチ』とファンタスティック映画祭で映画ファンに知られる北海道・夕張の町に、ある日突然、全身灰色の幽霊が出現する。しかもひとりやふたりではない。町のあちこちに、幽霊が多数現れたのだ。観光誘致にマイナスになるということで、町はこの事件を外部に秘密にすることを決める。小さな町の中で、幽霊と町民との不思議な同居生活が始まった。ほんの1日か2日で町の人たちは幽霊の存在にすっかり慣れてしまい、幽霊は町の風景にすっかり溶け込んだかに見えたのだが……。

 全身灰色の幽霊という設定は面白いし、幽霊の存在を外部に漏らしたくないという町の理屈も理解できなくはない。幽霊に害がないとわかって、町の人たちがあっという間に幽霊の存在に馴染んでしまうという展開も、何となく納得できるような気がする。しかし幽霊の身元や、なぜ夕張の町にいるのかという理由がわかっているのに、その存在を幽霊の家族や身内に知らせないというのがどうも釈然としない。幽霊になった人というのは、不慮の事故や事件で亡くなった人だ。突然家族を失った人からすれば、たとえ幽霊でもいいから、自分の家族や肉親にひと目会いたいと思う人がいるに違いない。

 「昔のことなのでほとんど連絡先が不明になっている」とか、「幽霊が現れたと言っても信用されず、何度も電話したら逆に怒られてしまった」とか、「ぜひ会いたいと言った人たちが大雪で町にたどり着けなかった」とか、言い訳ならいくらでも考えられると思う。いろいろ努力はしたけれど、やっぱり家族と会えなかったから、せめて町民総出でお別れ会をやりましょうよ……という展開になった方が感動的だったのではないかな。まあそうなればなったで、映画の雰囲気はまた別のものになっていた可能性はあるけれど、この映画では役場の人たちがいかにも気の利かない、人情味のない人たちに思えてしまう。

 幽霊がやって来るのでもなく、去っていくのでもなく、ただそこに出現し、消えていくという設定が秀逸。幽霊は見えなかっただけで、ずっと前から夕張の町にいた。そして姿が消えた後も、やっぱり夕張の町に幽霊たちはいるのだろう。生きている人と死んでいる人の境界を、これほど優しく描いた作品はちょっとお目にかかれない。幽霊になった人たちは、今も我々のすぐ隣で我々を見守っているのだ。

2005年1月上旬公開予定 シブヤ・シネ・ラ・セット
配給:WAHAHA本舗株式会社 配給協力:pdd
2004年|1時間34分|日本|カラー|ビスタサイズ|STEREO
関連ホームページ:http://www.wahaha-hompo.com/
ホームページ
ホームページへ