1リットルの涙

2004/12/15 メディアボックス試写室
若くして難病で亡くなった女性の手記を映画化した感動作。
ヒロインを演じた大西麻恵の熱演が光る。by K. Hattori

 1988年(昭和63年)に原因不明の奇病・脊髄小脳変性症のため亡くなった木藤亜也さんの手記「1リットルの涙」と、彼女の母・木藤潮香さんの手記「いのちのハードル」を原作にした実録ヒューマンドラマ。脊髄小脳変性症というのは人間の運動能力を司る小脳・脳幹・脊髄の細胞が変質し、数年から十数年に渡って徐々に消滅していくという病気だという。14歳の中学3年生でこの病気が発症した亜也さんは、治療のための体調記録も兼ねて医者から日記を付けることを勧められる。徐々に麻痺し衰えていく四肢の筋肉に鞭打つように21歳まで日記を付け続けた彼女は、その後25歳と10ヶ月にしてついに力尽きた。

 手記のタイトルでありこの映画のタイトルでもある『1リットルの涙』は、彼女の日記の中にある言葉だ。肉体の急速な衰えからついに高校への通学を諦めざるを得なくなった彼女は日記にこう記す。「わたしは東高を去ります。そして、身障者という重い荷物をひとりで背負って生きてゆきます。なあんてかっこいいことが言えるようになるには、少なくとも、1リットルの涙が必要だったし、これからももっといるとおもいます。耐えておくれ、わたしの涙腺よ!」。しかし物語は彼女が日記にこう記したところが折り返しポイント。彼女が養護学校に通うようになってからは、リハビリで少しずつ命を先送りしながら命の終焉に向け歩むという、常人の理解を超えた辛く厳しい日々が始まるのだ。

 主人公の木藤亜也を演じているのは大西麻恵。母の潮香を演じるのはかとうかずこ。難病映画では主人公の病気を、観客がどれだけリアリティを持って体感できるのかがポイントになる。特にこの映画では、最初に健康だったヒロインが徐々に運動能力を衰えさせ、最初は足を引きずりながらゆっくりと歩き、やがて手足や首をフラフラと動かしながら緩慢な動作をするようになり、舌が回らなくなり、最後は手足が麻痺して常に手足が不自然にねじれているという状態に至る。主演の大西麻恵はモデルとなった亜也さんの主治医や実際の障害者に協力してもらい、病気をリアルに見せるための役作りをしたという。後戻りせずに悪化していく病気の進行が、じつに丁寧に演じられ演出されているのだが、この成果の多くは彼女の熱演によるものだろう。

 ヒロインの病状がひたすら悪化し、何の予想外の出来事も番狂わせも起きないまま、医者の予告どおり死んでいくというストーリーは、ドラマとしてはやや平板にも思える。二十歳そこそこの年齢で常に死を意識して生きなければならなかったヒロインや、確実に訪れる間近な家族の死という現実を抱え込んだ家庭の日常には、もっとドラマがあったのではないだろうか。父親は何を考えていたのか、弟や妹は姉のために何をしていたのかなど、日記や手記に書かれていないところまで取材し直せば、さらに厚みのある家族のドラマが作れたようにも思う。

正月第2弾公開予定 テアトル池袋、KURAWOOD
配給:1リットルの涙上映委員会
2004年|1時間38分|日本|カラー|アメリカンヴィスタ|DTS STEREO
関連ホームページ:http://www.allout.co.jp/
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