渋谷物語

2004/12/17 東映第1試写室
安藤昇の自叙伝「激動」を村上弘明主演で映画化。
もう少し尺に余裕があるとよかったが……。by K. Hattori

 戦後の渋谷で安藤組(東興業)を立ち上げ、数々の伝説を作り上げた安藤昇の自伝「激動」を、村上弘明主演で映画化した実録ヤクザ映画。安藤昇の原作は昭和40年に本人の主演で『血と掟』という映画になっている。今回の映画はいわばそのリメイク。ヤクザ家業を引退した後は数多くの映画に出演し、何本もの実録ヤクザ映画を製作してきた安藤昇は、『血と掟』の後も『やくざと抗争/実録安藤組』『実録安藤組/襲撃篇』『安藤組外伝/人斬り舎弟』『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』などで自分自身を演じている。今回の映画は企画者でもある安藤昇にとって、自分自身の原点に戻った作品となっているのだろう。今回の映画もラストシーンで、安藤昇本人が今現在の安藤昇役として出演している。

 昭和20年夏。米軍の本土上陸に備えた学徒特攻兵として訓練に明け暮れていた安藤昇は、突然の終戦に茫然自失となって渋谷の街に戻ってくる。昔の仲間たちと再会し、一度は捨てた命とヤクザや三国人相手に暴れまわる日々。やがて安藤とそのグループは、渋谷界隈で誰もが一目置く存在となっていた。

 安藤昇の名前を一躍全国区のものにしたのは、昭和33年に起きた東洋郵船社長・横井英樹の銃撃事件だ。映画では横井の名前が中井秀麿という仮名になっているが、事件のいきさつやその後の逃亡生活の様子が手際よくまとめられている。この事件で九死に一生を得た横井秀樹は、昭和57年に赤坂のホテルニュージャパンの火災で33名の犠牲者を出している。この襲撃事件で彼が死んでいたら、その後の安藤昇の人生も、ホテルニュージャパンの火災も違ったものになっていただろう。

 監督の梶間俊一は安藤組の組員だった花形敬を主人公にした『疵』と『実録・安藤組外伝/餓狼の掟』を撮っているが、今回はそれら過去の実録ものの集大成として、ついに安藤昇本人を映画にしたといったところか。村上弘明のヤクザ役というのは珍しいが、白いスーツでばりっと決めたギャングスタイルはなかなか堂に入っている。安藤組というのはその当時にしてはとても垢抜けた雰囲気の組織で、安藤昇もその周囲の幹部たちも、それまでの渡世人たちとはまるで違うにおいの男たちだったらしい。この映画がヤクザ慣れしていない村上弘明をやくざ役に持ってきたのは、その点だけでも適材適所と言えるかもしれない。

 上映時間2時間を越えるこのクラスの映画としては大作だが、安藤組の十数年を2時間にまとめるのはやはり難しいようで、エピソードはどれも駆け足になってしまった。安藤本人の話はともかく、周辺のキャラクターに掘り下げが足りなくなっている。敵役の中井秀麿もけち臭い小悪党にしか見えず、これではムキになって彼に食って掛かる安藤昇まで小物に見えてしまうのだ。若い女優を演じた遠野凪子は予想外の大胆演技。この映画の一番の収穫は彼女だったかもしれない。

3月5日公開予定 渋谷TOEI1、新宿オスカーほか全国ロードショー
配給:東映ビデオ
2004年|2時間2分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.shibuya-story.com/
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