プロジェクトY

ゆふいんAFTER X

2005/1/13 シネカノン試写室
温泉と映画の町・湯布院で行われた町議選挙のドキュメンタリー。
市町村合併を目前に控えた地方自治体の現在。by K. Hattori

 温泉と映画祭で有名な大分県・湯布院町で行われた町議会議員選挙の様子を、新人の若手候補者数名に密着しながら取材したドキュメンタリー映画。湯布院町は今年2005年10月に隣接する狭間・庄内の2町と合併して「由布市」になる予定だが、この合併話を推進してきた町長が2003年に汚職容疑で逮捕されて以来、合併の是非をめぐって町全体が揺れに揺れている状態なのだ。町政トップの腐敗を許したのは、町議会が本来持つべきチェック機能を働かせていなかったからだ。湯布院はこのままでいいのか。人口の多い2町と合併することで、これまで行ってきた町民主体の町おこしが水の泡になるのではないか。そんな危機感を持った人たちが町中を駆けずり回り、町議会に新しい人材を送り込もうと奮闘する。

 村おこしが功を奏して国内でも名を知られた温泉観光地となった湯布院は、町の目抜き通りが業者の出店でびっしりと埋め尽くされて、まるで軽井沢銀座か清里かという雰囲気日本中からひっきりなしに人がやってくるこの町には、町の自然や雰囲気を愛して外部から移住してくる人々や、一度は町を離れたものの再び戻ってくる人たちも多い。そんな湯布院の現状を点描しつつ、この映画は町議選挙を目前にした狂乱状態の中に、観客をいきなり引っ張り込む。そこで飛び交う言葉を聞いていても、はっきり言って何がなんだか全体の輪郭がまったく見えてこないのだ。「なんだなんだ?」「一体何がどうしたの?」と面食らっているうちに、映画はどんどん先に進んでいく。

 映画を全部観れば大まかな問題点は整理されて全体像も見えるのだが、序盤のゴチャゴチャは取材の準備不足や段取りの悪さによる素材不足が原因ではないだろうか。湯布院町民なら説明せずともわかるだろうが、部外者にはこの選挙にまで至る流れが見えたほうがいい。そうしないと、なぜこの映画の作り手や参加者たちが新人の若手に期待しているのかという「思いのたけ」が、ぼんやりとしか伝わってこない。映画に登場する人たちと同じ問題意識を、映画を観ている側も共有したいのだ。独自素材がないなら新聞記事でも図表でもナレーションでも、何でも総動員すればいいのに……。

 映画が大きく取り上げている3人の新人候補者たちは、昔からの地元密着型、一度は都会に出たが故郷に舞い戻ったUターン組、外部から湯布院を訪れて腰を落ち着けたIターン型と、現在の湯布院を象徴するような経歴の持ち主たち。だが映画を観ていても三者三様の個性がなかなか見えてこない。なぜ映画がこの3人を取材しようとしたのか、その動機や必然性が伝わってこない。3人が町をどうしようとしているのかという主張も見えなければ、3人それぞれの関わりも見えずらい。

 読み解いていくのにずいぶんと補助線が必要な映画だが、映画から伝わってくる熱気は本物。続編も製作中とのことで、その完成が今から楽しみだ。

2月12日公開予定 ユーロスペース
配給・宣伝:プロジェクトY 配給協力:ゼアリズエンタープライズ
2004年|1時間22分|日本|カラー|スタンダード|ステレオ
関連ホームページ:http://www.d-b.ne.jp/yufuin-c/y/
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