ハウルの動く城

2005/2/2 錦糸町シネマ8楽天地CINEMA8
「私はおばあちゃん」と言った途端にヒロインは老婆になる。
宮崎駿の新作は内容がかなり未整理だ。by K. Hattori

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジー小説「魔法使いハウルと火の悪魔」を、『千と千尋の神隠し』の宮崎駿監督が映画化した長編ファンタジーアニメ。もともとこの映画は『デジモンアドベンチャー』の細田守監督作として、2003年陽春公開予定で製作がスタートした。しかし途中で細田監督が降板して宮崎監督が後を引き継ぎ、完成も2004年秋まで大幅にずれ込んでいる。この監督交代がなぜ生じたのか、その真相はよくわからない。おそらく黒澤明の『影武者』で主役が交代したのに匹敵する事件だと思う。完成した映画を観た人たちが、口をそろえて「ああ、交代がなければ!」と言うのも同じ。細田監督の『ハウル』は観てみたかった。ジブリが外部から監督を招いて製作プロダクションに特化するという意味でも、とても興味があったんですが……。

 細田版の『ハウル』は『デジモン』で細田監督と組んだ吉田玲子脚本で準備が進んでいたはずですが、細田監督の降板に合わせて脚本も破棄されたようで、完成した『ハウルの動く城』では脚本家として宮崎駿の単独クレジットになっている。僕自身は原作を読んでいないので、この映画がどの程度原作の内容を反映したものになっているのかはよくわからない。しかし映画はよくも悪くも、宮崎駿の世界になっている。

 宮崎駿は『風の谷のナウシカ』で環境保護や反戦というわかりやすいメッセージが大受けたことに味を占め、その後も「環境」や「反戦」というわかりやすいメッセージをしばしば自作の中に取り込んでいる。しかしもともと宮崎アニメにおける「反戦」は、主人公が「好戦的な敵」と戦うことを正当化する便宜的な言い訳に過ぎないのだ。私利私欲のために戦争や混乱を利用しようとする悪党のたくらみを、主人公がものの見事に阻止する。そこに宮崎アニメの活劇的な興奮がある。これはテレビ版「ルパン三世」の「死の翼アルバトロス」や「さらば愛しきルパン」、テレビアニメ「未来少年コナン」や『天空の城ラピュタ』も同じだ。

 しかし今回の『ハウルの動く城』は、「好戦的な敵と戦う我らがヒーロー」というこれまでの単純な図式を避けようとしているようだ。しかしその結果、物語の明確な対立軸が失われて、活劇の興奮が今ひとつ盛り上がらなくなっているのを誰もが感じるだろう。いったいハウルは大きな鳥の姿になって、誰と戦っているのだろうか? 戦争は誰が何のために起こしていて、ハウルはそこで何をしようとしているのだろう……。映画を観ている人で、それが明確にわかる人はどれだけいるのか。原作を読めってことですか?

 ヒロインのソフィーにかけられた呪いの謎も、よくわからないままソフィーは若い姿に戻る。もちろんソフィーの見た目がくるくる変化するところは、この映画の中で一番の見所ではある。でも映画を最後まで観てもなにやらすっきりしないのは、僕だけではないだろう。

11月20日公開 日比谷スカラ座、日比谷映画ほか全国東宝洋画系
配給:東宝
2004年|1時間59分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.howl-movie.com/
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