ライフ・イズ・ミラクル

2005/3/9 スペースFS汐留
ボスニア内戦を背景にした賑やかで騒々しいラブ・コメディ。
監督はエミール・クストリッツァ。by K. Hattori

 『アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』のエミール・クストリッツァ監督最新作は、1992年から始まった母国ボスニアの内戦を描くドタバタ調の悲喜劇だ。92年春。鉄道建設のため山間の小さな村に一家で赴任してきたルカは、元オペラ歌手の妻ヤドランカと、サッカー選手を目指している息子ミロシュと共に、おおむね平和な暮らしを享受していた。ところが戦争勃発直前に息子は軍隊に召集され、妻は男と外国に逃げ出してしまう。息子も敵軍の捕虜になってしまったという。一人残されたルカは、戦争捕虜となった敵側の若い看護婦サバーハを家に預かることになる。遠からず行われる捕虜交換で、息子を取り替えるための大切な手ごまだ。ところが激しい戦闘の中で、いつしかルカは彼女と愛し合うようになってしまった。待ちに待ったはずの捕虜交換が目前に迫った時、ルカはわが子を取るか、それとも愛する若い恋人を取るかの二者択一を迫られる。

 奇想天外で波乱万丈なラブストーリーに見えるこの物語は、ボスニア紛争中にセルビア人の男性に起きた実話がもとになっているという。敵と味方に別れた男女がめぐり合い、惹かれ合い、愛し合うという「ロミオとジュリエット」のようなシンプルで普遍的なラブストーリーに、象徴的・寓意的・諧謔的なエピソードをたっぷり盛り込んだ2時間半。クストリッツァの映画はいつでもそうだが、話そのものよりも個々のエピソードのほうが圧倒的に魅力があるし面白い。筋立ては後回しで、まずは場面の面白さを優先している感じだ。この話だって、普通に物語を語るだけなら2時間半も必要あるまい。例えばマイケル・ウィンターボトムなら、1時間半ちょっとでまとめてしまうだろう話なのだ。

 かなり飛んだり跳ねたり忙しい映画なのだが、ドタバタの合間に見える登場人物たちの「気分」はかなりリアリティがある。テレビで内戦の様子を見ていてもまったく実感がなく、すぐ近くに爆弾が落ちてきてもまるで他人事同然に過ごしている主人公の姿。戦争はあっという間にやってきて、主人公の暮らしをめちゃめちゃに破壊してしまう。生活や気持ちが戦争に適応する前に、戦争のほうが先に生活を壊し始める。この映画を観ていると、たぶんどの時代のどんな戦争も、きっと同じように突然始まったのだろうな〜という気持ちにさせられる。戦争で一儲けを企む悪党たちもいれば、戦争の周囲を飛び回って浮ついた言葉を垂れ流すジャーナリストもいる。

 主人公の友人アレクシチ大尉(演じているのは監督の息子ストリボール・クストリッツァ)が「この戦争は俺たちの戦争じゃない」と吐き捨てるようにつぶやく台詞が印象に残る。どこかの誰かが始めた戦争に巻き込まれ、なんだかよくわからないうちに、かつての隣人たちと血みどろの殺し合いをしなければならない不条理。なぜ殺すのか。なぜ殺されるのか。それすらわからないのが現代の戦争なのかも。

(原題:Zivot je cudo)

初夏公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ、オフィスエイト
2004年|2時間34分|フランス、セルビア=モンテネグロ|カラー|ビスタサイズ|DOLBY SR、DIGITAL
関連ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/
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