イン・ザ・プール

2005/3/11 日本ヘラルド映画試写室
ついクスクス笑ってしまうのは映画の中に自分を見るからか。
松尾スズキ主演のサイコ・コメディ映画。by K. Hattori

 奥田英朗の同名小説を松尾スズキ主演で映画化した、「サイコ・ホラー」や「サイコ・サスペンス」ならぬ「サイコ・コメディ」映画。松尾スズキ演じる精神科医のもとに、さまざまな症状を持つ患者たちが次々に訪れる。イチモツが勃起したまま何日もおさまらない持続性勃起症の営業マン。自宅の電気やガスを切り忘れていないか心配で、まったく仕事が手に付かなくなってしまう強迫神経症のルポライター。ストレス解消のためのプール通いが高じて、ついにはプール依存症になってしまったサラリーマン。

 登場するのはどれもこれも「心を病んだ人たち」なのだが、映画はそれをあまり深刻には描かず、むしろ笑いの対象にしている。「心を病んだ」と言っても、別に深刻な精神病ではない。ちょっと心の健康を害しているだけの、いわば心がカゼ気味の人々がこの映画の主役たちなのだ。でもただのカゼだと思って放っておくと、こじらせて大変なことになるかもしれませんぞ!という、教訓めいたオチが最後に付いている。まあ医者に相談したとしても相手は松尾スズキなので、はたして治療にどの程度の効果があるのかどうかはわからないけれど……。

 松尾スズキ主演とは言いながら、彼が演じている精神科医の伊良部一郎はドラマの狂言回し。映画の実体としては、オダギリジョー演じる勃起男、市川実和子演じる不安症女、田辺誠一演じるプール人間の話が、互いに接点を持たぬまま同時進行していく構成だ。どのエピソードにおいても、登場人物たちは「病人=社会的弱者」としては描かれない。彼らは我々のすぐ近くにいる、ごくごく普通の人たちだ。その「普通の人」が、じつは病んでいるという現実。この映画を観ていると、「普通の人が病んでいる」のか「病んでいるのが普通の人(病んでいてこそ普通の人)」なのか、よくわからなくなってくる瞬間が何度もある。みんなどこかおかしくても、なんとか世界を生きている。僕も自分が病んでいるという自覚なしに、どこかで病んでいるのかもしれないし……。いや、病んでいるに違いない!

 観客に向かって「あんたも病んでいるかもよ」と冷たく言い放つような映画だが、それでいてついついクスクス笑ってしまうのは、狂言回しとなっている松尾スズキのキャラクターによるところが大きいように思う。つかみ所のないベタベタしただらしない喋り口調に好き嫌いはあると思うが、この映画ではそのグニャングニャンの軟体動物ぶりが、「あんたも病んでるかもよ」という厳しい指摘の矛先を鈍らせる。患者に「これも治療の一環だ」と言い聞かせてライバル病院に石を投げさせた松尾スズキが、一目散に逃げ出してしまう身の軽さと無責任さ。まったく信用できないこの精神科医のキャラがあってこそ、「あんたも病んでるよ」という映画の指摘を笑い飛ばせるのだろう。病んでて結構。それはそれで、面白いかもしれないじゃん!

2005年初夏公開予定 テアトル新宿、シネセゾン渋谷
配給:日本ヘラルド映画
2004年|1時間41分|日本|カラー|ビスタサイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.inthe pool.jp/
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