原作の「世にも不幸なできごと」シリーズは、子ども向け読み物の世界ではベストセラーになっている人気シリーズだという。現在11巻まで出ている原作のうち、今回の映画では最初の3巻までを再構成して映画化しているようだ。監督はブラッド・シルバーリング。彼はデビュー作が『キャスパー』だからゴシック小説風のファンタジーは経験済み。突然身近な人がいなくなってしまう不幸というテーマは、監督作の『シティ・オブ・エンジェル』や『ムーンライト・マイル』でも描かれていたものだ。
突然の火事で両親を失ったボードレール家の3人姉弟妹。彼らは親戚を名乗るオラフ伯爵の家に引き取られるが、伯爵は子どもたちを奴隷のようにこき使うだけでなく、相続された遺産目当てにその殺害を企てる。辛くもその魔の手を逃れ、別の家に引き取られた3人だが、オラフ伯爵は巧みな変装で再び3人に近づき、新しい後見人を殺害して自分がその後釜に座ろうとする。はたして3人はオラフ伯爵から逃れられるのか? 不幸の連鎖を抜け出して、安住の地を見いだすことはできるのか?
オラフ伯爵を演じるのはジム・キャリー。最近はシリアスな二枚目役の多かった彼だが、今回は『エース・ベンチュラ』や『マスク』のハイテンションな芝居が復活している。特殊メイクでオラフ伯爵ほか何人かの人物を演じているが、全身からプンプン匂ううさん臭さがたまらない。昔からジム・キャリーが好きだった人にとっては、「待ってました!」と声をかけたくなるような熱演だと思う。オラフ伯爵は極悪非道で血も涙もない、正真正銘の悪党だ。しかしその悪党も、ジム・キャリーが演じることでとてもチャーミングなものになる。子どもたちを踏み切りに置き去りにして、ワクワクしながら列車の到着を待っている姿なんて最高です。
罪のない子どもが大人の欲望と無関心のためにどんどん不幸になっていく物語は、全体を凝った美術デザインでファンタジー仕立てにしていても観ていて気の毒になってしまう。しかし人間の不幸は行き着くところまで行き着くと、「もはや笑うしかない」という段階に達するものだ。子どもたちが不幸になればなるほど、その不幸に健気に立ち向かっていくことを強いられれば強いられるほど、映画を観ているこちらはさらなる不幸を期待する。ジュード・ロウがもの悲しい語り口で子どもたちの不幸を予言し、それが実現すればするほど、観ているこちらのワクワクドキドキは増していく。
豪華キャストの立派な映画で、作品としてのボリュームは人気の『ハリー・ポッター』シリーズ以上だと思う。原作にはまだ続きがあるが、この映画に続編が作られるかどうかは微妙。このクオリティを維持したままの続編製作は難しいだろう。物語にはまだ多くの謎が隠されているのだが、映画はこの1作だけで終わってしまうような気がする。続編を作るとすればアニメかな〜。
(原題:Lemony Snicket's A Series of Unfortunate Events)