いらっしゃいませ、患者さま。

2005/05/12 松竹試写室
『夜逃げや本舗』の監督による病院をテーマにしたコメディ。
残念ながらこれがほとんど笑えないのだ。by K. Hattori

 経営不振で倒産寸前の病院に、従業員女性をめぐるトラブルから銃撃されたストリップ小屋の経営者が運び込まれる。恩地明郎という名のこの男は、風俗界のカリスマ、業界の風雲児と呼ばれる凄腕の持ち主。患者不在の病院運営を見て業を煮やした恩地は、「俺ならもっとましな経営が出来る!」と院長の近馬に怒鳴りちらす。売り言葉に買い言葉。「やれるもんならやってみろ!」と言い切った近馬院長のお墨付きを得て、恩地の奇抜な病院改革が始まる。それはお色気たっぷりの付加サービスで男性患者から追加料金を徴収するという、風俗王ならではの作戦だったのだが……。

 『夜逃げ屋本舗』シリーズで一世を風靡した原隆仁監督の最新作は、近頃いろいろ話題の病院経営をテーマにしたコメディ。原監督は98年の『お墓がない!』以来の映画だが、今回も脚本や演出がちぐはぐ。どの場面を見ても、いちいち段取りと予定調和ばかりが目について白けてしまうのだ。この映画には、こうした物語で最低限必要な「らしさ」がない。観客に虚構の世界を信じさせるだけの仕掛けもなければ、仕掛け不足を補うために演出が発揮せねばならない強引さも欠けている。

 そもそも最初のストリップ小屋のシーンから、僕は「これはちょっと違うだろうに」と思った。ストリップのステージに大友康平扮する恩地が立って、観客に向かってトークを一席。このトークが、ストリップ小屋の客に対するどんなサービスになっているのだろうか? 近馬の病院からは医師や看護婦が次々に辞めていくのだが、その理由もきちんと説明されているようには思えない。待合ロビーにはいつでも患者があふれているのに、なぜこの病院は慢性的な赤字なのだろう。なぜこれほど深刻な事態になっていて、院長はニヤニヤ笑いながらストリップ見物なんかできるんだろうか?

 映画の見せ場は病院に次々登場するユニークすぎる付加サービスにあるのだが、ナース指名制、同伴CTスキャン、口移しバリウムといったサービスを仮に男性患者が歓迎しるにせよ、女性患者についてはどんなサービスが提供されているのか疑問。このあたりは観客に考える隙を与えず、この3倍ぐらいの珍サービスを考えて詰め込んでほしかった。これでは映画最大の見どころが、単なる映画の一挿話になってしまう。(案外そのつもりだったのかな〜。)

 映画の要点がつかみにくいのが、この映画最大の問題。近馬病院はいろいろな問題を抱えたポンコツ病院だったが、すったもんだがあった末に最後は病院再建に成功する。かつて抱えていた問題とは何だったのか? なぜその問題が生じたのか? 問題解決のために何が必要だったのか? それがまったく語られないまま、映画は勝手に始まり勝手に終わる。これは企画と脚本の段階で、もっとテーマや話の要点を整理しておくべきだった。

6月公開予定 アミューズCQN、テアトル池袋
配給:松竹 宣伝:ライスタウンカンパニー
2005年|1時間46分|日本|カラー|ヴィスタ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://kanjasama.com/
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