ある朝スウプは

2005/05/27 映画美学校第2試写室
等身大のリアリティで描写されるある愛の終わり。
PFFグランプリを受賞した自主製作映画。by K. Hattori

 パニック障害の発作を起こして自宅アパートに引きこもるようになった北川と、彼と一緒に暮らしているOLの志津。北川は部屋でパソコンを使った内職のような仕事をしながら、仕事を紹介してくれるというセミナーに頻繁に通い始めた。志津は務めていた会社を辞めて、新しい職場を探し始める。やがて志津は、北川の奇妙な振る舞いが気になり始める。医者から処方された薬を飲まず部屋に閉じこもっているくせに、セミナーには足しげく通っている。部屋に不似合いな黄色いソファーを運び込む。夜中にひとりで呪文のような言葉をブツブツつぶやいている。あるとき志津は、北川が自分に黙って大量の貯金を引き出していることを知る。彼はセミナーと称する新興宗教にはまり込んでいたのだ……。

 2004年ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2004のグランプリと技術賞を受賞したほか、各地の映画祭で高く評価されている自主製作映画。監督・脚本・撮影・編集は高橋泉。高橋監督はセミナーの信者役で出演もしている。北川役は廣末哲万。志津を演じるのは並木愛枝。監督以下、全員が無名。撮影はビデオ撮り。光量不足のざらついた画面と、映画全体を覆う録音のヒスノイズ。しかしそれによって、この映画はまるで実際に同棲しているカップルの部屋をそのまま撮影したような、等身大のリアリティを生み出している。小さな部屋の貧乏くささが、そこにある生活用具のけち臭さが、その部屋で暮らしている主人公たちの体臭さえも感じさせる。ふたりの関係が煮詰まってくるに従って、映画を観ているこちらまでが息苦しくなっている。

 これは愛のすれ違いの物語だ。北川のことを志津は心配しているし、彼のために力になりたいと思っている。彼女は彼を愛しているのだ。彼はそんな彼女の思いを十分に知りつつも、しかしその愛に満たされることがない。彼を受け入れ、包み込み、癒しを与えてくれるのは、志津との暮らしや彼女の愛ではなくセミナーなのだ。ほとんど常に無表情だった北川が、セミナーの幹部に自分が抜擢されると聞いた途端に顔を輝かせる。だが志津はそんな事情を知らないし、知ろうともしない。彼女はセミナーの存在を、自分たちの生活から追い出したい。

 トイレに立てこもった北川を、志津が部屋の外の廊下にあるトイレの窓からほうきの柄で小突き回すシーンが映画のクライマックスだ。ここではふたりの関係が既に破綻していることが、互いの立ち位置で象徴的に表現されている。他人に理解できない小さな世界に閉じこもることで、心の平安と癒しを得ようとする北川。そんな彼を、なんとか自分の世界に引き戻そうとする志津。しかしその時、ふたりの間には大きな壁が立ちふさがっているし、志津は部屋の外の廊下に出ている。ふたりはもはや、別の世界に立っているのだ。

 最後の朝、志津がつぶやく「他人なんだね」という台詞が悲しい余韻を残す。

7月30日公開予定 ユーロスペース(レイト)
配給:ぴあ、ユーロスペース
2004年|1時間30分|日本|ビデオ|カラー
関連ホームページ:http://www.pia.co.jp/pff/soup/
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