ザ・インタープリター

2005/06/16 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ5)
国連の通訳が偶然耳にした暗殺計画の真相は……。
主演はニコール・キッドマン。by K. Hattori

 国連総会の通訳をしているシルヴィア・ブルームは、ある日偶然、人気のない会議場で囁かれた謀議を聞いてしまった。それは間もなく国連で演説が予定されている、マトボ共和国大統領ズワーニの暗殺計画だった。シルヴィアの通報により、要人警護を担当するシークレットサービスが調査を開始。そこで明らかになったのは、通報者のシルヴィアもマトボ出身であり、しかも政府に家族を殺され、兄は反政府活動家をしているという事実だった。彼女はズワーニを恨んでいるどころか、暗殺の動機さえ持っているのだ。警備の現場責任者となっているケラー捜査官は、シルヴィアの証言の中に「嘘」の気配を感じ取るのだが……。

 シドニー・ポラック監督のサスペンス映画で、主演はニコール・キッドマンとショーン・ペン。舞台になっているのはニューヨークにある国連本部で、なんでも建物内部での本格的な映画撮影はこれが初めてだという。これは結構重要だ。なぜならこの映画はアメリカという現代の覇権国家がその中心に抱え込んだ、国連という厄介な異物こそが大きなテーマになっているからだ。

 通報を受けて国連に向かったシークレットサービスは、身分証を高くかざしているにも関わらず入口で止められてしまう。「アメリカ政府の職員だぞ!」と怒鳴る捜査員に対して、警備員は涼しい顔で「ここは国連です。治外法権ですよ」と答える。もちろん外国要人の警備を職務としているシークレットサービスが、そんな基本的なことを知らないはずはない。この場面は映画を観る人たちに対して、「国連はアメリカではない」「国連はアメリカ国内法とは別のルールで動いている」という物語の前提を示すものなのだ。

 物語の中でズワーニ大統領は国際刑事裁判所に送られそうになっているが、アメリカはこの国際裁判所の設置に反対し、国際刑事裁判所規程にも署名していない。(クリントンは署名したがブッシュがそれを撤回した。)イラク戦争についても国連は開戦に慎重だったが、アメリカ(ブッシュ政権)はそれを無視してイラクを攻撃している。アメリカにとって国連も国際刑事裁判所も無関係なもの。ほとんどのアメリカ人にとって別世界だ。

 ヒロインのシルヴィアは映画の観客にとっても謎めいたところがあり、あまり親しみを感じられない人物として描かれている。観客が身近に感じるのは、ケラーたちシークレットサービスだろう。しかし物語の中で、ケラーたちは事態の目撃者でしかない。物ごとはケラーたちの思惑や行動とは無関係なところでどんどん進み、ケラーたちは最後まで一連の事件の当事者になれない。これはアメリカ政府と国連、アメリカ国民と国際社会の距離を象徴しているわけだが、サスペンス映画としては大きな欠点だ。シルヴィアとケラーは身近なものを失った悲しみを共有することで互いに親近感を持つが、それも新しい人間関係を生み出す力にはならない。

(原題:The Interpreter)

5月21日公開 有楽座ほか全国東宝洋画系
配給:UIP
2005年|2時間8分|イギリス、アメリカ、フランス|カラー|サイズ|DTS、Dolby Digital、SDDS
関連ホームページ:http://www.inpri.jp/
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