濡れた赫い糸

2005/07/07 東映第1試写室
望月六郎・北村一輝・奥田瑛二とくれば期待するが……。
色街が舞台の大人のファンタジー。by K. Hattori

 友人と出かけた場末のクラブで、一美という女に出逢い一目惚れした茂。彼女は忍山という色街で働く娼婦だった。彼女を自分のものにしたい茂は、彼女を連れて逃げる。だがふたりの生活は長く続かず、やがて一美は姿を消した。彼女はヤクザの夫がおり、夫の出所に合わせて彼のもとに戻ったのだ。一美を取り戻そうとした茂は袋叩きにあうが、彼女はそんな茂を冷やかに見つめるだけだった。それから1年。茂はホストとして働きながら、援交目的の若い女をつかまえて売春組織に売り飛ばしていた。だがある日つかまえた恵利という女が、茂の運命を狂わせていく……。

 北村一輝主演のアウトロー映画。アウトローといってもヤクザとは限らない。社会の規範からまったく逸脱して、世間の裏街道を歩いていく男と女の物語だ。監督はこのジャンルで数々の名作を作ってきた望月六郎。主人公を転落させるファムファタルのような役回りで、高岡早紀が一美を、吉井怜が恵利を演じている。主人公が居つく忍山の先輩・中沢を演じているのは、望月作品の常連である奥田瑛二。原作は『新・悲しきヒットマン』『鬼火』『恋極道』などの作品で、望月監督と組んでいる山之内幸夫の「実録女師」。

 全体の流れをつかみにくく、最後まで観ないとこの映画が何を描こうとしているのかがよくわからない。これは北村一輝演じる男が、色街に沈んでいく物語なのだ。彼は最初、色街から女と逃げようとする。だがやがて、色街に戻ってきてそこで儲けようと企む。しかしそれにも挫折し、最後は色街と同化してしまう。ただし物語には開始早々1年の中断があったり、主人公に寄りそう女性が次々に変化していくなど、筋運びはきわめて断続的でギクシャクしている。これは語り口に、何か工夫をしてほしかった。エピソードを整理して話の流れをスムーズにするのも方法だろうし、全体を回想形式にして、最初に主人公の最終的な姿を見せておくという方法もあっただろう。(あるいは主人公が刺されるところで始めてもいい。)

 主人公の変化(それを「成長」と呼ぶのは少し抵抗がある)は、奥田瑛二演じる中沢の存在が大きな働きかけをしている。女の弱さや寂しさをすべて受け入れ、自分を傷つけることさえ厭わなかった中沢。背中の刺青は彼にとって一種の聖痕だが、それと同じような聖痕を、茂も自分の身に受けることになる。中沢と茂の関係はゆるやかな師弟関係だが、これをもう少し前面に出すと、映画全体のまとまりがよくなったかも。

 吉井怜が演じる恵利はかなり強烈なキャラクターだが、その存在感だけで人物の背景を感じさせるほどではない。ここは彼女の過去にまつわる台詞をほんの少し加えるだけで、人物がずっと膨らんだと思う。茂や中沢、一美などに比べて、恵利は個性に頼りすぎだと思う。吉井怜本人は頑張っていると思うので、周囲もそれを手助けしてほしかった。

8月6日公開予定 銀座シネパトス
配給:ジャパンホームビデオ
2005年|1時間43分|日本|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.jhv.jp/
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