好きだったユタカと初めてセックスした日、彼の口から出たのは「オレ、彼女いるよ」という想定外のセリフだった。別に子供じゃあるまいし、そんなことでいちいち大騒ぎはしたくない。でも平静を装いながら、当然心穏やかではいられないのだ。そういうことは、セックスする前に言っとけっちゅ〜の! 彼女の名前は「みどりちゃん」なんだってさ。
南Q太のコミックを『ロボコン』の古厩智之監督が映画化した、等身大のラブストーリー。ヒロインのゆうこを演じるのは、これが映画初主演という星野真理。最愛の彼女がいるくせに、ゆうことの関係も続けているユタカを西島秀俊が演じている。女にだらしがないユタカと、それを知りつつ好きでいることをやめられないゆうこ。これは「彼のことが諦められない」という気持ちとは違う。ゆうこは気持ちの上で、もうとっくにユタカを諦めているつもりでいるのだ。それでも「好き!」という気持ちは止まらない。彼から何かお願いされれば断れないし、彼が部屋に来れば泊めてしまう。(ユタカには部屋の鍵の場所も教えてある。)彼が他の女の子と仲よくしていれば、焼き餅など焼く立場ではないと知りつつ心が揺れる。
映画は大半がゆうこの視点で語られていて、ゆうこ役の星野真理は画面に出づっぱり。そこで演じられるヒロインの心の揺れ動く様子はとてもリアルに感じられ、この若い女優さんはなかなか力のあるひとなのだな〜と感心した。映画の終盤になってヌードシーンもあるのだが、失礼ながらこれがあまり美しくないのもヨロシイ。これがキレイキレイなハダカになってしまうと、このラブストーリー全体が絵空事になってしまう。
ユタカはひどい男で、そんなユタカが好きで好きでたまらないゆうこもダメな女だ。でもそんな男と女のゴチャゴチャしたみっともない関係こそが、この映画のメインテーマ。恋は美しい。恋は素敵。恋は素晴らしい! はいはい、確かにそんな恋もあるでしょう。でもそうじゃない恋だってあるんだよ。恋は思い込みの世界だから、どんなに不細工な恋も、描き方次第でオシャレでカッコイイものになってしまう。たいていの恋愛映画は、そうやって恋を飾っている。でもこの映画はそれを避けて、普通の人たちの普通の恋が持つ打算やずるさや臆病さや卑屈さを、飾りをはぎ取って提示するのだ。そうそう恋愛なんて、多かれ少なかれ本当はこんなものなのさ。
映画の半分はゆうこがバイトしているカラオケ・スナックが舞台になるが、ここで「わたし音痴なんで」とまったく歌わなかった彼女が最後に1曲だけ歌うラストシーンの気持ちよさ! 確かに下手なんだが、それが逆にこの場面には合っている。曲は荒井由実の「14番目の月」。この曲はエンドクレジットでも奥村愛子のカバーで再度流れ、その際は画面の下に、カラオケのように歌詞が表示されるのがまたイイ! 僕は指先でリズムを取りつつ、心の中で歌ってました。
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