フライ,ダディ,フライ

2005/07/15 丸の内東映1
娘を傷つけた男と決闘するため中年オヤジが猛特訓。
観ていて元気が出てくる映画。by K. Hattori

 窪塚洋介主演作『GO』の評判に気をよくしてか、原作者・金城一紀の別の小説が東映で映画化された。脚本は原作者の金城一紀本人で、これが映画脚本初挑戦とのこと。監督は昨年公開された監督デビュー作『油断大敵』で、日本映画プロフェッショナル大賞の新人監督賞を受賞した成島出。主演は岡田准一と堤真一で、3代目「なっちゃん」こと星井七瀬が映画初出演しているのにも注目。

 毎日郊外のマイホームと会社を往復する平凡なサラリーマン鈴木一は、愛娘が男子高校生に殴られ入院したと聞いて驚く。相手は大物政治家のどら息子で、高校のボクシングチャンピオン。謝罪と称して病院に現れた彼は、まったく反省の色もみせずヘラヘラ笑っている。鈴木は相手の高校生に報復し、娘と家族の信頼を取り戻すために、高校生で喧嘩の達人のパク・スンシンから一夏の猛特訓を受けることになるのだが……。

 娘を殴られたサラリーマンが相手を殴り返すという話だが、これが「復讐譚」になっていないのがいい。最後は相手と1対1のタイマン勝負で、いわば昔の果たし合いという雰囲気。理不尽な暴力に対して、結局は暴力を使って決着をつけるのだが、この決着自体に大きなカタルシスが存在するわけではない。むしろこれは、映画全体としてはエピローグみたいなものだ。特訓を終えた鈴木は、相手のボクシング高校生に勝ってもいいし負けてもいい。問われているのは、そこに体を張って立ち向かう勇気や気概があるかどうかだ。自分の気持ちを立証するために、鈴木は相手の前に立たなければならない。

 映画の見どころは、会社を休職して特訓に打ち込む鈴木の成長プロセスと、そこで生まれる鈴木とスンシンの交流にある。喧嘩の達人として孤高の存在感を見せていたスンシンが、鈴木に対して内面の弱さをふと見せてしまう場面がいい。彼にとって世の中の大人は、自己保身と欺瞞だらけの軽蔑すべき存在だったのだろう。かといって、同級生の仲間たちは頼りない。鈴木はダメおやじの鈴木を鍛えながら、彼の中に「自分を守ってくれる大人」の姿を垣間見る。最初は鈴木を軽蔑し馬鹿にしきっていたスンシンも、この時点ではもう鈴木を自分と対等な存在として認めている。サラリーマンという日本社会の本流中核にいる鈴木と、在日という立場で日本社会の周辺にいるスンシンが、日常から離れた空間(木の上)で手を取り合うのだ。

 鈴木の特訓は彼自身の個人的な動機にもとづくものなのだが、特訓によって強くたくましく変化していく姿を通して、観ている人はその「個人的な動機」を超えて勇気を与えられるはずだ。ただ走る。ひたすら走る。その姿の中に、人は自分自身の何かを重ね合わせる。映画を観ていて、なぜこれほど燃えてしまうのか不思議なほど燃える! じつは僕、この映画に感化されて毎朝走り始めました。今のところ、三日坊主にはなってません……。

7月9日公開 丸の内東映1ほか全国東映系
配給:東映
2005年|2時間1分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.f-d-f.jp/
DVD SpecialShop DiscStation 7dream_88_31 TSUTAYA online
ホームページ
ホームページへ