TKO HIPHOP

2005/08/09 TCC試写室
渋谷の街を舞台にした日本版『8Mile』のつもりかな……。
若い俳優たちの顔ぶれが新鮮。by K. Hattori

 同じような境遇の親友同士が、ある事件をきっかけにして別々の道を歩んで行く。ひとりは夢を見つけて成功への階段を駆け上がり、もうひとりは暴力の世界で自滅する。そんな定番の青春映画だが、舞台を渋谷のクラブシーンに設定した音楽映画に仕上げたのがミソ。些細なことで人気ラッパーと対立した主人公たちが、1週間後にクラブでMC対決することになって付け焼き刃のDJ修行やMC修行をすることになるという話はバカバカしいのだが、それがどんなにウソっぽくてもそれなりに見せてしまうのは不思議。話の流れがしっかりしているので、細部の甘さや弱さがさほどの欠点にはなっていないのかもしれない。

 映画は主人公たちが人気ラッパーと対決するまでと、それ以降でガラリと雰囲気を変える。前半はいわばラップ版『ロッキー』だ。人気も実力も兼ね備えたヒップホップ界の若き王者に挑む、無名のチャレンジャーたち。その才能を延ばそうと個人コーチを引き受ける連中もいれば、励ましの言葉を送る者もいる。この前半はラップやDJについてのさまざまなテクニックを解説する部分でもあり、ヒップホップにまったく興味のない人が観ても、何となくそこで行われていることがわかるようになっている。

 後半はそれとは様変わりして、渋谷の裏社会で頭角を現していく主人公ツヨシの姿と、クラブシーンで注目を浴びるようになるもうひとりの主人公マサシの姿を対比させていく構成だ。ところが街のチンピラに堕していくツヨシの凄味に比べて、マサシのラッパーぶりにはまるで説得力がない。黒を主体にしたツヨシのストリートファッションはぱっちり決まっているのに、マサシの童顔と衣装は最後までチグハグな印象が抜けないのだ。かくしてふたりの主人公を対比させていく映画後半は、ほとんど片肺飛行に近い状態。それを埋めるのがオカマのシンディーや菅田俊扮するタイ料理好きの刑事なのだが、こうしたキャラクターが物語をいくら引っ張っても、マサシのエピソードは中身が空っぽだから映画の後半はどうしても軽くなってしまう。

 名刺で女を口説くレコード会社の好色なプロデューサーとか、街のワルとつるんでいる悪徳刑事、最後の最後に意外な人物が悪の大ボスの地位に座るなど、ありがちなキャラや展開の大盤振る舞い。でもこうした使い古された手が、この映画に安定感を生み出している。目先の新しさに戸惑うことなく、話だけを追いかけていけるのだ。

 映画の収穫はツヨシ役の山根和馬と、ケイ役の石川佳奈の存在だろうか。特に山根和馬はよかった。演技の上手下手をどうこう言う以前に、独特の雰囲気を作り出せる個性がある。石川佳奈は素直さがいい。ひとりでは取り立ててどうということのない女の子にも見えるが、他人の芝居を受けてのリアクションで俄然彼女の良さが出てくる。相手役次第では存在感を発揮する女優になると思う。

10月1日公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給:アートポート
2005年|1時間30分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.tko-hiphop.jp/
DVD SpecialShop DiscStation 7dream_88_31 TSUTAYA online
ホームページ
ホームページへ