ALWAYS

三丁目の夕日

2005/10/21 よみうりホール
昭和30年代を描く西岸良平の人気コミックを映画化。
ファミリー映画としては欠陥品。by K. Hattori

 西岸良平の人気コミック「夕焼けの詩―三丁目の夕日」を、『ジュブナイル』や『Returner リターナー』の山崎貴監督が映画化。山崎監督の過去2作はファンタジックなSFアドベンチャーだったが、今回は昭和30年代を舞台にしたちょっぴり切なくてホロリと泣ける人情劇。作品の方向性はまったく違うようだが、得意のVFXを使って昭和33年の東京をリアルに再現してみせた。

 監督は1964年生まれなので、当然ながら昭和33年(1958年)をリアルタイムで知っているわけではない。映画の中の東京・夕日町は、現実の昭和33年を離れてファンタジーの空間になっている。しかし西岸良平の原作もまた、著者独特の絵柄のおかげで、現実の昭和30年代を離れてファンタジーになっているのだと思う。この映画をもっと年配の監督が作れば、夕日町もそこで暮らす人々も、もっと生々しいリアルな存在になったに違いない。でもそれは、「三丁目の夕日」とは違う世界になってしまったかもしれない。この映画が原作コミックの世界観をそのまま実写に置き換えることに成功しているとは思わないが、それでも現実の昭和の風景からの距離感という点で、この映画と原作コミックは同じような距離を取っているように思う。

 劇中には昭和33年を示す様々な記号が散りばめられている。映画冒頭にきらめく「TOHO SCOPE」(昭和32年登場)のロゴに続き、集団就職と就職列車、蒸気機関車、オート三輪、テレビ、アドバルーン、氷式の冷蔵庫、コカコーラ(日本法人発足が昭和32年)、都電(路面電車)などなど。しかし映画のシンボルとしてしばしば登場するのは、建設中の東京タワーだ。映画の中の昭和33年と現代とは、完成した東京タワーのシルエットを通して最後につながる仕掛けになっている。

 しかし僕はこの映画を観ていて、昭和33年を描くなら当然登場すべき当時の風物が、いくつか描かれていないことに気がつく。例えばそのひとつは銭湯であり、もうひとつは映画だ。日本の映画人口がピークを迎えるがちょうど昭和33年なのに、この映画の中にはテレビが登場しても映画が出てこない。テレビ放送のための巨大送信アンテナである東京タワーの建設と、観客であふれ返る映画館の様子を対比させると、映画からテレビという時代の流れがより鮮明になったと思うのだけれど……。

 細かな傷や弱点はあるが、全体としてはいい映画だと思う。しかしこの映画を、子どもと一緒に観に行くときには注意が必要だ。この映画はサンタクロースの正体をばらしているので、まだサンタの存在を信じている子どもにこの映画を見せることはできない。いい映画なのに、これがとても残念だ。このエピソードは大人にだけは意味が通じて、子どもにはそれとわからない描き方を工夫してほしかった。この無神経さのせいで、映画は観客を大人に限定してしまった。

11月5日公開予定 日劇2ほか全国東宝系
配給:東宝
2005年|2時間13分|日本|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.always3.jp/
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