ブレイキング・ニュース

2005/11/01 TCC試写室
信頼回復のため徹底した情報管制を敷く警察組織。
これは最近の戦争報道のパロディだ。by K. Hattori

 凶悪な銀行強盗グループを捕らえようと張込みを続ける警察。しかし偶然の手違いから犯人グループに逃走され、しかもその一部始終を、たまたま現場近くにいたテレビ局のカメラに撮影されてしまう。衆人環視の中でみすみす犯人たちを逃した警察に非難は集中。失われた信頼を回復するため、警察は奇抜な広報手段を考え出す。それは逃げた犯人グループ逮捕の瞬間を、厳重な管理のもとでテレビ中継することだ。あるアパートに逃げ込んだ犯人たちは、警察に踏み込まれて脱出をはかる。しかし逃げ道がなくなると、住人を人質にとって籠城。こうなると長期戦だ。警察は犯人たちとの攻防を、徹底した情報操作と演出によって、お茶の間向けのテレビショーに仕立てようとするが、その意図に気づいた犯人たちも、ネットを使って独自に情報配信をし始める……。

 監督は『ザ・ミッション/非情の掟』や『PTU』のジョニー・トー。逃走する犯人と警察の駆け引きという部分は一般的なポリス・アクション映画のようにも見えるが、この映画の面白さや狙いはそれとは別のところにある。それはテレビ・ニュースで伝えられる「現場の映像」が、必ずしも真実ではないという事実だ。特にそれは、戦争報道において顕著になる。湾岸戦争やボスニア紛争のニュースが、特定勢力の思惑によって一方的に脚色・演出されていた事実はよく知られている。こうした戦争報道の効果が広く知られるようになると、戦争は現実の戦場ではなく、テレビ画面の中でどちらがより正当性や優位性を主張できるのかという部分に関心が移っていく。現在行われているアメリカの対テロ戦争やイラク戦争は、まさにそうした情報戦争という側面を持っているのだ。

 本作『ブレイキング・ニュース』は、対テロ戦争の情報管理に躍起になるアメリカと、その情報管理体制に風穴を空けようとするテログループの攻防を下敷きにした物語だ。アメリカは兵士に小型カメラを持たせて戦場に送り、その映像を報道各社に提供した。協力的なマスコミを戦車や装甲車で戦場に随行させ、砂漠を驀進する戦車部隊を生中継させた。戦場を遠く離れた作戦本部では記者相手のブリーフィングが定期的に開かれ、そこでは戦場で撮影された映像が編集された上でマスコミに披露される。情報飢餓状態になっているマスコミは、そうした官製情報を何の検証もなしに放送することで権力の情報操作に協力する。これに対してテロリストたちは、ビデオ撮影したメッセージをネットで公開したり、ビデオテープを放送局に送って対抗する。映画の中ではそれが、小規模な形で繰り返される。

 しかしそんなお話そのものより、映画の魅力を高めているのはジョニー・トー監督の人物描写だ。犯人グループと人質たちが、一緒に食事をする場面がじつに楽しい。映画のオチも、犯罪の中でしか生き方を選択できない人たちの悲しみが伝わってくる。

(原題:大事件 Breaking news)

12月3日公開予定 シアターN渋谷、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋
配給:タキコーポレーション 配給協力:マジックアワー
宣伝・問い合わせ:メディアボックス
2004年|1時間31分|香港、中国|カラー|ドルビーSR、ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.breakingnews.jp/
DVD SpecialShop DiscStation 7dream_88_31 TSUTAYA online
ホームページ
ホームページへ