ロード・オブ・ウォー

2005/11/02 GAGA試写室
世界を股に掛ける武器商人のリアルすぎる実像。
キャラクターがやや図式的かも。by K. Hattori

 旧ソ連時代に一家でウクライナから米国に移住したユーリー・オルロフは、家業のユダヤ料理店を継ぐことなく、自分の才覚で自分の才能に見合ったビジネスをはじめる。それは人から人へ、国から国へと武器を売る商売だ。弟とコンビでこの後ろ暗い稼業に手を突っ込んだオルロフは、ソ連崩壊後の混沌とした世界情勢の中で、あっという間にその世界のトップに上り詰めていく。プレッシャーから酒と麻薬に溺れる弟を尻目に、美しい妻と愛する息子のいる平和な家庭を築くオルロフ。法の網を巧みにすり抜ける“死の商人”を逮捕しようと、国際警察の刑事がピッタリと彼をマークするのだが……。

 『ガタカ』や『シモーヌ』のアンドリュー・ニコル監督最新作は、実在の武器商人たちをモデルにしたという、シニカルでサスペンスたっぷりのピカレスク映画だ。文学の世界で「ピカレスク小説」の特徴とされるのは、『虚構の自伝形式をとり、下層階級出身の主人公が次々と事件に出会い、異なる階級の人たちに接するという形式』(小学館スーパーニッポニカより)だという。この映画は主人公自身を語り手とした告白体で、彼の生い立ちから現在までを語る伝記風の構成。貧しいウクライナ移民の息子が、武器売買を通して世界のあちこちを飛び回り、同業の武器商人、国際警察官、政府高官、難民、大統領まで、ありとあらゆる人々に出会うエピソードが盛り込まれている。まさにピカレスクを地で行く内容だ。

 人物配置もかなりシンプルな形に練り込まれている。徹底して商売にこだわり、家族には商売の顔を隠して金儲けにはげむ主人公オルロフを軸にして、彼の隠された「良心」の象徴となる弟ヴィタリー、彼を非難する「正義」や「社会的モラル」の代弁者となる国際警察の刑事ジャック・バレンタイン、冷戦時代の「古い世界秩序」を代表するベテラン武器商人のシメオン・ワイズ、自分たちの豊かさがいかなる犠牲の上に築かれたものかに無自覚なアメリカ人の典型であるオルロフの妻エヴァなどなど……。それぞれの登場人物たちは皆それぞれに与えられたポジションの中で、それぞれのキャラクターをきっちりと演じて見せる。キャラクターの立ち位置は絶対に重なり合わず、全員がきわめて理路整然と物語の中を動いていくのだ。

 しかしこの映画の欠点は、その理路整然とした部分にあるのかもしれない。理路整然としすぎていて、生身の人間なら当然持つべき破綻や歪みがないのだ。脚本と俳優は各登場人物たちに精一杯の人間味を付加し、それがキャラクターそれぞれに血を通わせてはいる。しかしそれは各自の持ち場の範囲内での行動に限られ、それぞれの持ち場をはみ出してしまいそうな、自由で伸び伸びとした姿勢までは見えないのだ。映画全体に少し窮屈な印象があるのはそのせいだろう。武器商人のリアルな生態に迫ったという意味で、面白い映画ではあるのだけれど……。

(原題:Lord of War)

12月17日公開予定 有楽座、渋谷シネフロントほか全国洋画系
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
2005年|2時間2分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR、デジタル
関連ホームページ:http://www.lord-of-war.jp/
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