三年身籠る

2005/11/07 メディアボックス試写室
独特の空気感を持つ女優・唯野未歩子の初監督作。
これは本人が主演すべきだったかも。by K. Hattori

 インディーズの日本映画で引っ張りだこの人気女優・唯野未歩子の監督デビュー作は、お笑いコンビ「オセロ」の中島知子主演のファンタジー映画。妊娠したヒロインが、臨月になっても子供を産まないまま3年を過ごすという、何が面白いのかよくわからない風変わりなお話だ。

 化粧気のない顔で自体をおっとりと受け止めるヒロインの姿は、監督の唯野未歩子が普段映画の中で演じているヒロイン像と重なる。おそらくこの映画は、ヒロイン役を唯野未歩子本人が演じた方がシックリしただろうし、そこに映画としての面白さも出てきたと思う。中島知子も悪くはないのだが、テレビのバラエティー番組などで見ている普段の彼女に比べると、いかにも「ただ今ワタクシは演技をしております!」というポーズが見えてしまう。彼女はドラマ初出演の「ルームシェアの女」では好演していたので、今回の映画はやはり役のキャラクターと本人のキャラクターが馴染んでいないのだろう。

 ヒロインの夫を演じるのは、『いたいふたり』で唯野未歩子の夫役を演じたことのある西島秀俊。この配役でヒロインが唯野未歩子だと、この映画は『いたいふたり』の続編のようになって楽しそうだったのに……。それにしても、意志の弱さから女性関係がユルユルになってしまう男を、この人はじつに自然に演じる。誘惑に対する意志の弱さはどんな男にも多少の心当たりがあるはずだが、西島秀俊はそれをまったく嫌味なく、不潔な印象を与えることなく演じられる不思議な俳優だ。この映画で彼が「じゃあ、ちょっとだけ」と間違いを起こしても、それが嫌らしく感じられない。まるで電車の中で老人に席を譲かのような自然さで、こうしたことができてしまう面白さ。このシーンは映画の中で一番ニヤニヤしてしまう場面だった。

 女性が3年の間身籠もり続けるというお話に、いかなる寓意が込められているのか僕にはさっぱりわからない。お腹の中で子供が大きくなっていくのに従い、それまでバラバラに存在していた登場人物たちの一部が、主人公の周囲に集結してくる。主人公は大きく重くなるお腹のせいで日常生活から遠ざかり、最初は車椅子に、次は自動車に、さらに病院のベッドに、最後は人里はなれた一軒家に隠れるようにこもってしまう。しかしそれとは逆に、彼女の周囲の人間関係はより濃密になっていくのだ。でもそれのどこが面白いのかな……。

 結局この映画最大の問題は、すべての中心となるヒロインに魅力がないことだろう。この映画はお話の面白さで観客を引っ張る映画ではなく、キャラクターの魅力で観客を引きつける映画だと思うのだが、主人公の周囲にいる家族たちがドタバタ騒ぎを通して個性を発揮しているのに比べると、ヒロイン自身は動きが少ない分だけ魅力をアピールしにくい。とらえどころのないフワフワとしたキャラクターの吸引力を、残念ながら中島知子は体現できていないと思う。

お正月第二弾公開予定 新宿武蔵野館
配給:ゼアリズエンタープライズ
2005年|1時間39分|日本|カラー|アメリカンビスタ|DTS STEREO
関連ホームページ:http://www.threeyeardelivery.com/
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