愛してよ

2005/11/17 CINEMART試写室
子供をモデルにしようとするシングルマザーの話。
脇のエピソードがやや類型的。by K. Hattori

 離婚して子供をひとりで育てている美由紀は、10歳の息子ケイジを一流のキッズモデルにしようと奮闘している。いくつものお稽古ごとに通わせつつ、オーディションを受けさせる日々。しかしケイジ本人は、そんな母の熱意を少し白けた目でながめている。キッズモデルと言っても、しょせんは地方都市のローカルモデル。華やかそうに見えても、その裏側はじつに泥臭い。それに母の美由紀にしても、ケイジの尻をたたいてモデル業に追い立てるのは、彼女自身の現実からの逃避でもあるのだ。「人生はクジ引きの連続」が口癖の美由紀にとって、ケイジをモデルにすることもクジ引きの一種に違いない。だがある日のこと、美由紀はケイジの仕事で知り合った広告代理店の男と結婚すると言い出す。ケイジはこれに大反発して、三流建築士である実の父に会いに行くのだが……。

 新潟を舞台にした母と息子の物語。この映画のテーマはタイトルにそのまま掲げられている。人間は愛するよりも愛されたい。愛されたいがゆえに、誰かを愛すこともある。でも厄介なことに、「愛」は目に見えない。目に見えない愛の存在を証明するように、人はそれを物や行動に置き換えようとする。やがて物や行動の陰に隠れて、愛は見えなくなってしまう。いったい物や行動の後ろに、愛はあるのだろうか?

 シングルマザーの美由紀は、息子のケイジを愛している。でも彼女はその愛を、「息子をキッズモデルとして成功させる」という行動に置き換えた。美由紀がケイジにあれこれ指図することは、すべて美由紀の「愛」に端を発しているはずだ。だがそのうちに「モデルとしての成功」自体が目的になり、愛はどこかに置き去りにされているのではないだろうか……。そんな不安を、じつは美由紀もケイジも抱いているのだ。映画にはモデル仲間のエピソードとして、「成功」だけが目的化して精神的に疲弊していく子供たちの姿が描かれる。キッズモデルの世界で都市伝説化している「エリカ」という少女の亡霊。それは過酷な競争の中で「愛」を見失った子供たちの象徴なのだ。

 主人公の美由紀とケイジ、離婚したケイジの父・沢木のエピソードは面白かった。これは各人物が、リアルに造形されているからだろう。特に西田尚美が演じる美由紀のキャラクターは秀逸。わがままで自分勝手ではあるのだが、女手ひとつで子供を育てる力強い生命力を感じさせる。映画を最後まで観て「なんとも天晴れ!」と思うのは、彼女にとっては恋愛や結婚すらも、生活を変えるための「手段」でしかなかったことが明らかになることだろう。世界は彼女中心に回っているかのようだ。ケイジのどこか投げやりな態度も、沢木の弱さも、美由紀のパワフルなキャラがあればこそだ。

 しかし映画の中で美由紀と切れている他のキャラクターには、あまり精彩を感じられない。父親から虐待されているモデルの話など、あまりにも図式的すぎる。

10月29日公開 新潟・市民映画館シネ・ウィンド、ユナイテッド・シネマ新潟、ワーナー・マイカル・シネマズ新潟
12月中旬公開予定 シアター・イメージフォーラム 全国順次ロードショー
配給:マジックアワー、ステューディオスリー 宣伝:ライスタウンカンパニー
2005年|1時間47分|日本|カラー|ヴィスタサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.aishiteyo.com/
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